東京五輪、「だめ経済」で金メダルの日本

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2006年から07年に1年ほど首相を務めていた安倍は、2012年12月、およそ5年ぶりに首相に再登板する。そうして始まった「安倍2.0」は、突如として、マーガレット・サッチャー英首相とロナルド・レーガン米大統領を足して2で割ったような、大胆な改革者として登場した。安倍は、規制緩和、変化を嫌う官僚組織の改革、イノベーションの促進、女性の力の発揮、外国人人材の誘致など複数の柱からなる政策を打ち出す。

だが実際には、その後2020年まで続くことになる第2次安倍政権の政策は、日本銀行による積極的な禁輸緩和と、2020年東京オリンピックという2本柱だった。安倍と自民党は、1964年のオリンピック後に日本を活気づけた集団精神を呼び覚ませば、どうにかして、魔法のように、高揚感のなかで昔の革新的なエネルギーを取り戻せると思い込み、大失策を犯した。

あまりに単純化した話に聞こえるだろうか。しかし、2013年に東京でのオリンピック開催が決まってから2020年初めにコロナ禍が始まるまでの間に、安倍政権の看板政策のほとんどは腰砕けになった。途中で意欲をなくしたのか、それともオリンピックが経済を劇的に変えると本気で期待していたのか、安倍時代の改革は不発に終わった。

成功と思われていたことですら輝きを失っている。日本のコーポレート・ガバナンスは強化されているように見えていたが、日産自動車ではカルロス・ゴーンをめぐる騒動を防げず、最近も東芝で取締役の選任をめぐる不祥事が起きた。福島の原発危機から10年たつが、それをもたらした安全上の欠陥に関連して刑務所に入れられる人がいるだろうか。

一方、安倍政権下で克服したとされていたデフレは、早くも再び頭をもたげている。欧米で急激なインフレが懸念されるのと対照的に、日本の6月のコア消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.2%の上昇にとどまっている。日本が物価上昇圧力を経験しているのは確かだが、それはコモディティーの輸入価格上昇という悪い種類のものだ。

では日本は何をやっているのか。見てすぐにわかるようなものは一つもない。2020年半ば、日本政府は国内総生産(GDP)の4割に相当する200兆円超の追加景気刺激対策を発表した。日銀は資産の買い入れを増やし、バランスシートをさらに膨らませた。だが昨年9月に安倍からバトンタッチされた菅義偉首相は、経済の再調整よりもオリンピックの中止回避にはるかに多くの時間を費やしている。

菅のチームは、新型コロナのリスクはすぐに後退し、2021年7月までに数百万人が日本を訪れ、経済に活力を与えてくれるものと踏んでいた。この賭けは非常に惨めな結果になった。

今考えられる最善のシナリオはせいぜい、今回のオリンピックが2022年以降、日本経済に大きな打撃を与えるようなスーパースプレッダーイベントにならないことだ。もしそうなってしまえば、2回目の東京大会は、「東京株」という新たな変異株を生み出すという、金メダル級の絶好の機会になったオリンピックとして歴史に記憶されることになるだろう。

編集=江戸伸禎

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