臨床心理士のみたらし加奈と話す「LGBTQ+とメンタルヘルス」のこと

対談連載「Talk about Mental Health」。第2回ゲストは、みたらし加奈


みたらし: 昔の日本では、精神疾患を抱えている人をケアするのは医療的な専門家ではなく、僧侶や陰陽師だったといわれています。西洋医学が日本に入ってきて治療法も変わってきましたが、つい100年くらい前まで「私宅監置」といって家の離れの一室を牢屋のようにして、精神疾患を抱えている人を隔離するようなことが行われていました。同じ疾患であっても「精神疾患」と言われると話しづらくなるのは、そうした歴史の積み重ねもあるのだと思います。

精神疾患は閉じ込めないといけない、隠さないといけない、こっそり病院に行かないといけないという考えがいまでも続いているんですよね。でも精神疾患は誰もが身近であるからこそ、「なんとなくその感覚わかる」というように、みんなが当事者意識をもつことや共感しあうこと、支え合うことが大切だと思います。

愛:日本社会に残るメンタルヘルスへの偏見を無くすために、最も重要なのはやはり「話すこと」だと思います。日常生活のなかで話すことによって、そのようなトピックに対して抵抗を無くしたり、もっとアプローチしやすくなるのではないかなと思います。加奈さんはメンタルヘルスについて話す時に意識していることはありますか?

みたらし加奈

みたらし:カウンセリングをする上では、相手との信頼関係を築くことが重要なので、偏見や決めつけを持たないことを意識しています。例えば恋人の話を聞く時は勝手に相手の性別を決めつけないようにしたり、相手のバックグラウンドを聞く時も「ご“両親”は何をされているんですか? 」とは聞かないというように、言葉遣いも意識しています。小さなことと言われがちですが、こちらが偏見をもって言及したら少しずつ不信感が生まれてきてしまうと思うんです。

臨床心理士として、LGBTQ+当事者の1人として感じること


愛:最近の研究を読んでいると、LGBTQ+コミュニティへのメンタルヘルス支援が不足していることがわかりますが、当事者の方たちからはどのような悩み事が多く寄せられますか?

みたらし:やはりベースにあるのは社会が受け入れてくれないからこその悩みも多くて、当事者の方をカウンセリングすると時折、社会への悔しさを感じます。結局は社会が変わらないと、根本的な問題が解決されない場合もあります。だから臨床心理士としても当事者としても、社会運動を起こしたいという思いがあります。

愛:やはり社会問題や社会情勢とメンタルヘルスは大きく関わっていますよね。私もblossom the projectを始めた当初はメンタルヘルスについてのみ発信していましたが、私自身なぜうつ病になったのかについて考えると、住んでいる環境で経験した差別やマイクロアグレッションも大きな原因の一つだなと。だからこそいまはメンタルヘルスだけではなく、さまざまな社会問題についても発信しています。社会問題とメンタルヘルスを考える上で、特に意識すべきことはなんだと思いますか?

メンタルヘルス
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聞き手・文=中川ホフマン愛 写真= 柴崎まどか 編集=河村優

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