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2021.07.30 06:00

化学肥料を置き換える「ピボット・バイオ」が470億円調達

(C)Pivot Bio

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の大学院で生物工学を専攻したカルステン・テンメ(Karsten Temme)は、環境に悪影響を及ぼす化学肥料への依存度を下げるため、窒素を使って作物を自殖させる方法を研究した。

農家は、植物の発育を安定させて収穫高を高めるために化学肥料を使い続けているが、科学者たちはこの問題を数十年に渡って放置してきた。

テンメは研究内容の商業化を目指し、2011年に大学院で研究室が同じだったアルヴィン・タムシルと共に「ピボット・バイオ(Pivot Bio)」を設立した。会社の設立に当たって、2人はビル&メリンダ・ゲイツ財団から支援を受けた。それから10年後、カリフォルニア州バークリーに本拠を置くピボット・バイオは、化学肥料に取って代わる微生物プロダクトを開発し、売上高は数千万ドル規模に成長した。

ピボット・バイオは7月19日、DCVCとシンガポールのテマセク・ホールディングスが主導するラウンドで4億3000万ドル(約472億円)を調達したことを明らかにした。同社の累計調達額は6億ドルを超え、評価額は約20億ドルに達した。

「農業分野のスタートアップでこの規模の資金調達は前代未聞だ。イノベーションがこの産業のどのセクターでディスラプションを起こすことができるか明らかになってきた」と現在41歳でピボット・バイオのCEOを務めるテンメは述べた。

テンメは、アイオワ大学で医用生体工学の修士号を取得後、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で博士号を取得した。博士課程では、合成生物学のパイオニアで現MIT教授のChris Voigtの研究室に所属し、作物を自殖させる方法を研究した。

テンメとタムシルは作物の根圏微生物のDNAを調べて成長に必要な養分を分析し、微生物のDNAを操作して必要な量の窒素を生産できるようにした。彼らは、土壌の微生物が元来DNAに備えている窒素生産能力を再活性化させたのだ。

「人類が肥料を使い始めてから、微生物が持つその能力は冬眠していた。そこで我々はその能力だけを冬眠から覚まそうと考えたのだ」と彼らは話す。

IPO前の最後の資金調達


ピボット・バイオは2019年に最初の製品である「Pivot Bio Proven」を米国のトウモロコシ農家向けにリリースした。この製品は6週間で完売したという。

トウモロコシや小麦、米の栽培用に毎年600億ドルの化学肥料が販売されているが、Pivot Bioによると化学肥料は世界の温室効果ガス排出量の7%を占め、気候変動に大きな影響を及ぼしているという。穀物は合成窒素の一部しか使わず、残った分は亜酸化窒素として排出される。亜酸化窒素は温室効果ガスで、二酸化炭素の300倍も温室効果がある。使われなかった合成窒素は硝酸となって水路に流出する。

これに対し、Pivot Bioの窒素を産み出す微生物製品は水路に流れ出したり、空気中に飛散することはないという。
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編集=上田裕資

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