平常時にもどるのは10月末か? ポストコロナの社会経済

初夏のニューヨークでは、ワクチン接種が進んだこともあり、(ほぼ)ノーマルな生活が戻ってきた。ニューヨーク市平均でワクチン接種が終了しているのは、成人中62%、マンハッタン地区に限ると71%となっている。ほぼ集団免疫に近いと言える。

セントラルパークの中では、市民が、散歩やジョギング、日光浴を楽しんでいるが、マスクをしている人は皆無だ。住宅地域の路上では、マスク比率は20%くらいだ。ただし屋内(スーパーや地下鉄)では、90%程度がマスクをしている。

マスク着用を強制している店舗も少数だがある。レストランの営業時間制限や屋内席の定員充足率規制はなくなり、人気店は満席が続いている。もちろんアルコール提供が制限されることはない。ニューヨークでは、「コロナからの独立」を祝っている。

昨年来、ニューヨーク市では、屋内席での飲食禁止が長く続いた。高級レストランですら、テイクアウトや宅配に対応していた。今年の前半から、ワクチン接種の進捗と感染率の低下に応じて、屋内席の定員は、30%、50%と段階的に緩和されてきたが、5月19日に100%まで完全緩和された。


ブルックリンのレストランの様子(2021年6月5日撮影)

ニューヨークでは、レストラン、エアラインをはじめとする、これまで停滞していたサービス業で、雇い止めした従業員を戻そうとしても、なかなか戻ってこないという人手不足状態に陥っている。

ひとつの原因は9月末まで続いている、失業手当割増措置で、働かなくても十分な所得が得られるからだ。賃金も上昇して、物価も上昇している。アメリカにおけるインフレ率の上昇が一時的であると考えられるのは、時間とともに労働者も戻り、サプライチェーンも再建されるというシナリオに基づいている。

大手金融機関は、従業員のワクチン接種を前提に、自宅勤務から、対面勤務に戻りつつある。先週訪問した大手金融機関では、すでに6割程度は職場に戻っているということだった。金融機関では「ワクチン接種済みの人はマスク不要」ということで、アクリル板もなく、帰り際には握手もして、平常に戻っている、という実感があった。

コロンビア大学は、秋学期の授業は対面で行うと決定、それまでに教職員・学生はワクチン接種を行うように、と通知が来た。いまやワクチン接種は、病院ばかりでなく、薬局でもできるし、もちろん大学で接種可能となっている。宗教上の理由、アレルギーなどの健康上の理由から接種しない選択はある。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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