ビジネス

2021.07.29 08:00

異分野の想像力をつなげて学ぶ「未来の組織、働き方」の本質とは

「インストラクター×AI」のハイブリッドフィードバックを備えた、オンラインフィットネスサービスの模様。

「インストラクター×AI」のハイブリッドフィードバックを備えた、オンラインフィットネスサービスの模様。

人工生命研究者、大学院大学の学長、最先端スマートシティの担い手、世界的美術館のキュレーター。ビジネスとは異なる分野の専門家たちの取り組みや哲学から見えてきたものは。
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「『よい発酵』のためには、『よい環境』が必要だ」。研究者、大学学長、スマートシティの担い手、美術館キュレーターとの対話を終えて思い出したのは、発酵技術を扱う企業の社長による言葉だ。有機物が微生物の作用によって、人に有益な「発酵」となるように、「環境と場の設計を通して、『いい循環』を生む」という共通点があったからだ。ここに「新しい組織、働き方」のヒントがあるのではないか、と考えている。

INTERVIEW 1

人工生命研究者・起業家が提唱 感情への「適切なフィット・プッシュ」


仲田真輝 NeuralX
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「このままでは、日本人は物事をこなすだけのマシンになってしまう。『日本人は、人件費は安く、真面目で、何も考えないで働いてくれるアリのようだ』という認識が世界にできてしまってからでは遅い」

そう警鐘を鳴らすのは、ロサンゼルス在住の起業家で、NeuralXCEOの仲田真輝だ。

NeuralXは、米UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)出身の動作解析専門のAI(人工知能)研究者たちとLAの著名フィットネスインストラクターたちによって2019年2月に設立されたスタートアップ。AIを生かし、世界初の「インストラクター×AI」のハイブリッドフィードバックを備えた、インタラクティブなオンラインフィットネス事業を展開している。

人工生命の研究者として2009年に米国に渡った仲田は、UCLAで博士課程、ポスドク研究員を通じ、10年にわたって人間をシミュレーションする研究を行ってきた。人工生命とは、生命を人工的に実現することを目的とした学問のことで、「人工知能」が脳の部分を指すならば、そこに身体が加わる、包括的な「生命」という概念だ。

「すべての行動のドライバーは『感情』です。だからこそ、やる気を引き出す環境をどのようにつくっていくかが、現在の日本の課題です」。そのために、AIやロボットにはできない人間の役割を、と仲田は説く。「iPhoneが『会社に遅刻するから起きて!』と言っても『機械がなんか言ってる、切ろう』となるでしょう。人は、機械ではなくて、人間に言われることで感情的な刺激を受ける。組織内で褒めたり、やる気を出させるのも同じこと。

だから、AIに指示されることに抵抗感がない世代が出てくるまでは、感情を持つ生き物として、どのように相手のモチベーションを引き出せるのかを想像する。それが、人間が、人間たるゆえんです」

恐らく、これから個々人にとって、どのような職場環境や人間関係が最もパフォーマンスが出やすいか、を分析する研究も進んでいくだろう。しかし、その過程において、人間の役割はまだまだ大きい。

どのようなビジョンを掲げ、どのように思いを向かわせ、成果に結びつけながら、個々の満足感や肯定感を醸成しやすい環境づくりができるか。そして、常に少しストレッチのかかった目標を設定し、やる気と成功体験の車輪を回していけるのか。

「適切なフィット」と「適切なプッシュ」。仲田が手がけるサービスのなかで、パフォーマンスを上げるために動作解析した結果、出された答えである。それらを想像・創造するのはほかでもない、人間の仕事だ。

「想像はAIが苦手なところ。一方で、人間が唯一できることであり、日本人が得意ではないところでもある。だからこそ、危機感を覚えてほしい」
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文=谷本有香

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