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2021.07.29

異分野の想像力をつなげて学ぶ「未来の組織、働き方」の本質とは

「インストラクター×AI」のハイブリッドフィードバックを備えた、オンラインフィットネスサービスの模様。


INTERVIEW 2

世界有数の大学院大学が行う 創造性育む環境と「5つのC」


ピーター・グルース 沖縄科学技術大学院大学

高い割合で優れた研究論文を発表する世界の研究機関ランキング(ネイチャーインデックス発表)で、2019年に世界9位にランクインし、注目を集めた大学院大学がある。沖縄科学技術大学院大学(OIST)だ。同大学は2012年の開学から、わずか10年足らずで東京大学や京都大学をおさえ、世界的な評価を受けた。偉業の背景には、いくつかのパラメーターがある。その指標こそが、新しい時代における「人」と「組織」のあり方を示唆しているように見える。

OISTは、研究員の65%、学生の80%が外国人で構成され、高い国際性をもつ。OISTの学長を務めるのは、ドイツ人のピーター・グルース博士だ。グルース自身も遺伝子制御および発生生物学の分野で国際的に著名な研究者である。また、02年から14年まで独マックス・プランク学術振興協会の会長も務め、科学者の特許取得や起業を支援する立役者としても貢献した。研究者の視点とマネジメントの視点を兼ね備える人間だ。

グルースは、米国立衛生研究所での経験を通じ、研究者にとって必要な因子に気づいたという。それは「知的な環境」と「研究資金ベース」の2つだ。これらがあってこそ、研究者たちが全力で自身の研究に没頭でき、はじめてクリエイティビティが生み出される可能性が高まるという。

このグルースの視点が、OISTのユニークさにもつながっている。OISTでは5年分の研究資金を提供し、5年後に厳格な審査をするというシステムをとっている。つまり、研究者が国などの競争的資金を研究プロジェクトごとに申請するという非生産的なことをしなくても、研究に没頭できるのだ。


研究員65%、学生80%が外国人で構成さ れる、高い国際性をもち、世界研究機関ラ ンキング世界9位に。

「私は、研究するうえで『5つのC』が重要だと考えている。Creative(創造性)、Curious(好奇心)、Courageous(勇気をもつ)、Critical(批判的であること)、そして、Complete(完結させること)です」

また、少人数での研究も特徴的だ。一般的な日本の大学の場合、1人の教授に対し20〜30人が働いているが、OISTにおいては教員1人のグループに8人未満しか研究員がいない。この規模であれば、管理・監督やメンタリングという役割をトップが果たすことができる。

また、若手のうちから独立性をもって研究できる環境があることに等しい。自身の若い感性を自由に使い、研究することができるのだ。さらに、OISTは学部に当たる研究科というものがない。数学の横に物理学、その隣に生物学の教員が肩を並べ一緒に仕事をしている。こうした配置により、情報共有や知のかけ合わせが生じるという。

個の独立性とそれを増進させる環境。さらに、それぞれの多様性が相互に作用することで生み出す知的創造。これは、何も研究という場所だけに重要な事項ではないはずだ。
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文=谷本有香

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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