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2021.07.29 08:30

「デジタル市役所」を見据えた変革へ 神戸市が即戦力を採用


他の自治体でもニュースとなったが、国からのワクチン供給が急激に減少した問題で、神戸市では7月2日から15日まで新規予約を停止。さらに、予約されていた約5万人分の予約をいったん取り消さざるを得なくなった。

その後、ワクチン供給の目途が判明したため、予約を再開した。その際「予約取消になった方」という新しいカテゴリーが最優先になったが、金田のアイデアが功を奏して、この危機を難なく乗り切ることができた。シンプルなアイデアではあるが、市民の「何とかしてほしい」という目の前の問題をすぐに解決できたことは大きな意味を持つ。

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外部人材であるが部下4人を束ねる

「ホームページ監理官」の名称から、デジタル分野の専門職のように見えるかもしれない。ところが現実は、金田は各部署との調整に忙しく、市長に直接提案や説明を行う毎日を過ごしている。

そんな苦労を続けるなかで、彼の気持ちには変化が生まれ始めたという。金田は言う。

「僕の場合、4つの会社を経験したことから、いろいろな立場から物事が考えられるという自信がありました。ですが、見える世界が違っていました。行政の視点はもっと広い。例えばそれは、みんなを救うという考え方です。民間であれば費用対効果がなければやめてしまえばよかったのですが、行政はそうはいかない。

そのことは、ノエビアスタジアムの大規模接種会場にJRの駅からシャトルバスを運行することを議論したときに感じました。スタジアムの最寄りに地下鉄の駅があるので、自分はJRの駅からのトランスポーテーションは要らないと思ったのですが、いざ実際に運行してみると高齢者からは好評だったのです。自分の年齢層以外のことを考えていないのが浅はかでした」

いまは市民の注目がワクチン接種の特設サイトに集まることから、市長から直々にHP修正の指示がくることも多いという。

ストレスになるのではないかと心配してしまうが、彼はそんな市役所での仕事を「率直に楽しいです」とあっけらかんと言う。

「どの手を打つのか、それをどう見せるのかで、苦情からお褒めまで、市民の声が180度変わるのが面白いです。これまでは行政で働くのは一定の期間だけかと思っていましたが、ひょっとすると将来的にも行政の仕事に携わっているかもと思うようになりました。いまはトップの声を直接聞けるだけでも貴重な経験です」

現在は、ワクチン接種のHPの対応に追われる金田ではあるが、神戸市でのホームページ監理官の任期は3年間だ。本来の彼の仕事である市のHPの刷新がどんなふうに進んでいくのか、楽しみながら見守りたい。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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