打ちたい日が決まっている、1日でも早く打ちたいという人にとっては、このシステムは不便だった。いちいち1つずつ会場を選んでは空いている日程を探し、ダメなら別の会場から選び直して……という作業を繰り返さなければならないからだ。
残念ながら、現状ではほとんどの自治体の予約サイトが同じような仕組みになっている。なぜなら、行政窓口の訪問を予約するサービスを改変したものが大多数だからだ。
例えば、行政窓口の予約システムでは、国民健康保険の窓口に行きたい人は子育て支援の窓口には予約を入れないから、いろいろな窓口を一覧にして空き状況を示す必要がない。そのため、このシステムを改変したワクチン接種の予約サイトでは、前述のような面倒な手間がかかってしまうことになる。
新型コロナウイルスのワクチンは、神戸市内のどこの会場に行っても、当初は同じファイザーのものが接種できた(いまはモデルナも接種可)。なので、接種会場が一覧になっていて、どの会場がいつ空いているのかを探せたほうがだんぜん便利だったのだ。
そこで、サイトを管理する大手ベンダーに、日時別の空き状況を一覧表示できるように改修ができないかを相談した。しかし、返事は、その作業には最大2カ月かかるというものだった。
市民の苦情を目の前にそんなに待てないと、久元喜造市長が参加する会議で幹部らが窮したときに、金田が「予約サイトを改修しなくても、市のHP上に全体の空き状況を表示する方法があります」と手を挙げた。
すかさず市長が詳しい説明を求めると、金田は「予約サイトの毎日の空き枠をCSV形式で取り出して、データを見える化するアプリを使い、一覧表にして公開する方法です。リアルタイム情報ではありませんが、1日1回更新すれば十分です。1週間あれば構築できます」と言い切った。
ワクチン予約空き状況サイト
シンプルで判りやすい対策だった。彼は、ワクチン接種を担当する部署とデータ解析を担当する部局に話をして、提案どおりに1週間後には予約の毎日の空き状況が一覧で判るサイトを完成させた。
民間の会社とは違う世界が見えた
金田が次に手掛けたのは、基礎疾患のある人など優先接種者だけが予約できるようにするウェブ上の仕組みだった。当初は大手ベンダーの予約サイトを改修して、利用者に自分がどの優先接種者に当たるのかを選んでもらおうとした。
ところが、市長らとの会議に毎日のように同席していた金田は、「ワクチンの状況は日々刻々と変わる。そんななかで、予約サイト自体を改修してしまったら、突発事象があったときにすぐに対応できなくなる。ベンダーの作業に時間がかかれば、すぐに切り替えられない」と直感的に思ったそうだ。
そこでベンダー任せにせず、予約サイトの一歩手前のワクチン特設サイトに、自らページをつくって、予約サイトに行く前に接種対象者か否かをチェックできるようにした。