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国際基準のエグゼクティブ・プレゼンス最前線


これが本物の“王女”のプレゼンス


このメッセージは、選手団だけでなく多くの市民の心にも響いた。それは、撮影方法やアン王女の装いなど、ビジュアル面が与える“印象の良さ”によるところも大きいだろう。

まず、この映像は作り込んだ感のあるものではない。自然かつリアルで、ラグジュアリーすぎない印象を与えるものだ。アン王女は胸よりも少し上から頭までが、少し角度をつけたアングルで映されており、立体的に見える。この飾らない撮影方法は、選手や国民、世界に向けたアン王女の真摯な姿勢を示すには適切な選択だったと言える。

アン王女の「装い」も好印象だった。まとめ髪に、襟元のつまったネイビーの上着。胸の高い位置につけられた金色のブローチはノーブルである。大粒ではないパールのネックレスとイヤリングは極自然で華美ではない。品と落ち着き、威厳を感じさせるものだ。赤の口紅は濃すぎず、その口元からは発せられる低めで落ち着いた声にもマッチしている。

また、心に響く要素として「声」も重要な役割を果たす。アン王女の場合、年齢によるところもあり声質における和音の乱れはあるが、声自体はしっかり安定しており揺れていない。聞く者を不安にさせない声だ。そして、しっかり顔を上げ発する言葉の一つひとつには、キリリとした力強さがあった。最後にゆったり微笑むその表情は、人の上に立つ人の揺るぎなさを感じさせた。

特になんの変哲もない映像でも、力強さと威厳、勇気が伝わるのは、王女のプレゼンスが“本物”であることを物語っている。虚飾の演出や装飾など、なんの意味も持たないことを体現している。

市民の心を動かすリーダーの発言力


アスリートたちは人生をかけてこのオリンピックを目指してきたはずだ。それは、選手たちを支える関係者も同様だ。

今回のアン王女のメッセージは、筆者の心にも響いた。正直なところ筆者は、今回オリンピックが開催されていることに関して未だ疑問があり、問題だとも思っている。しかしそれは選手たちには関係のないことだ。だから、改めて心に決めた。母国である日本の選手たち、そして世界各国から集結した選手たち皆の安全を祈ることを。また、いつもと違うオリンピックだからこそ彼らが何か特別な何かを味わえることを、何よりオリンピックを楽しめることを、無事に会期を過ごし帰る場所に戻れることを、見守ろうと決めた。

なお、アン王女はこの動画の中で、「オリンピックに出席しない」と語ったことでも話題になった。その理由は語られてはいないが、本来オリンピックには政治的判断が関与すべきではなく、さらに選手たちがそれに巻き込まれるべきではないという考えのもと、「幸運を祈ります。そして、秋に皆さんの成果を一緒に祝うことを楽しみにしています」と毅然とした笑顔で締めくくっているのではないだろうか。

日本時間の7月26日には、チームGBの一人でダイバーのトム・デイリー選手が男子シンクロナイズド10mプラットフォーム競技で優勝。13年待っていたオリンピック金メダルをついに獲得し、本人のみならずテレビレポーターもが生放送中に涙をこらえられずに泣いてしまうほどだった。

オリンピアンとして、最もステータスが高いお一人であるアン王女の存在感と言葉に、米国永住者で日本国籍の筆者でさえ何となくモヤモヤしていた東京オリンピックへの気持ちが切り替えられたほどだ。英国選手であれば、あのメッセージの心に響く度合いは比べ物にならないほどだろう。

これぞリーダーが持つべき発言力だ。

文=日野江都子

オリンピック
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