病気や障害をもつ子どもを育てる 母親たちの「働き方改革」

Taiyou Nomachi / Getty Images


「一番下の娘が1歳の時にアンジェルマン症候群であることがわかりました。医療機関を受診して、結果を聞いた時、人生で一番ショックを受けました。責任を感じて自分自身を責め、娘が結婚や出産という人生の見通しをうまく立てられないことに対しても、罪悪感を持ちました。

本当に落ち込んでしまって毎日泣いて過ごしていましたが、アンジェルマン症候群には「いつもニコニコしている」という特徴(躁鬱の躁状態が続いている状態が続く)があり、そんな娘の姿を見ていたら、子どもの障害について可哀想だとか幸せじゃないとか、そういう感覚は親である自分の偏見なのではないかと気づき始めたのです。

彼女は彼女らしく自分の幸せを見つけるべきだし、それを支えるのが親の役割だと自覚したのです。そうすると泣いている場合じゃないと思うようになりました」

五本木さんはこの経験をきっかけに、2016年から市民活動として療育広報をすることから始め、翌年には「横須賀テレワーク」という事業を開始した。

商工会議所と8人ほどの病気や障害のある子供を育てるお母さんグループがタッグを組み、在宅勤務や時短通勤が可能な仕事を受注できるような状況をつくり出した。商工会議所と一緒に、地域に根付いた雇用や情報共有、広報などで連携した。

2018年には、障害差別や偏見を少なくするには小さい頃からの教育が大切だと感じ、病気や障害のある子どもと通常級の子どもを一緒に混じり合える「学童」にこだわった、インクルーシブ学童施設を設立した。どちらかが我慢するのではなく、「友達」として両者が過ごせる空間をつくりたいと考えた結果だった。

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さらには保育所と美容室も運営を開始。美容室は当初、週に1度だけ障害のある子を対象に解放していたが希望者が多数になり、今では全日インクルーシブ美容室として稼働している。美容師である実妹が多動のある五本木さんの娘の髪をずっとカットしていたが、他の家庭のほとんどでは親が髪を切るケースが多く、子どもの身だしなみに苦労している課題を解決できないかと考えたのだ。

現在、保育所は認可外から横須賀市初の公的な一時預かり保育事業へと変わり、利用人数も増え、利用料も安価になった。併せて待機児童の受け入れも行なっている。美容室のほうも予約が常にいっぱいの状況で、たくさんの障害児とその家族の来客があるという。

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「さまざまな事業を展開していますが、どこまで行っても自分は親。自分の子どもが幸せに生きていける環境を整えていくことも使命だと考えています。

子どもが生きていくことができるための金銭的財産を残すだけではなく、おそらく今後も暮らしていくであろう生まれ育った地域で、子どもの特性を理解してもらいながら地域に愛され、みんなが暮らし良い環境を整えるのが親である私の役割なのではないかと考えています」

聞いているこちらが元気になるような五本木さんの話は、今後私が運営しているチャーミングケアで力を入れていきたい、支援する人たちの育成をする研修事業にも参考となることばかりだった。

とはいえ、五本木さんの事例は、本当に稀なケースだということも知っていただきたい。前述のヒアリング結果にもあった通り、働くための一歩を踏み出すのは、決して容易なことではないのだ。

今後も私は、この病気や障害のある子どもを育てる母親たちの働き方改革に関して、アンバサダー事業や今計画している支援をする人材育成のための研修事業において、もっと深く関わっていきたいと考えている。

連載:チャーミングケアで広げる家族の視点
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文=石嶋瑞穂

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