ベルリン発「おむつ」のスタートアップは、循環型地域をどう生み出したのか

DYCLE共同創業者の松坂愛友美さんとChristian Schlohさん

土に還る「おむつ」が生み出す、循環型地域コミュニティー」では、生分解性のおむつサブスクリプションを提供するスタートアップ、DYCLEの誕生に至った背景を中心に紹介した。本記事では、サーキュラーエコノミーの視点から同社の取り組みの特徴について考察していきたい。

おむつから地域住民の健康にも 「リジェネラティブ」な仕組み


新たな価値を創る考えを軸にしているDYCLEでは、環境を再生する「リジェネラティブ」な仕組みを実現させている。

生分解性のおむつを使い、排泄物とともに堆肥化させ、その堆肥を使って果物などの木を植えて育てる。そうすると、堆肥に含まれる栄養で土壌が改善するだけでなく、その土から育った新鮮な食材を地域住民が食べることができ、結果的に地域の人々も健康になる。その健康的な体からの排泄物を堆肥化し、土に与えることで、さらに土壌が改善されていくといった流れが繰り返されていく。

このように、DYCLEの仕組みを多くの人が活用することでより多くの堆肥を作ることができ、それらの堆肥を使うことで土に栄養が蓄えられ、環境が再生される好循環を生み出すのである。DYCLEの仕組みを創り上げる一員になることで、人間も大きな自然の循環システムの一部ととらえ、共生していく視点を得ることができる。

DYCLE
DYCLEのシステミックフローの図

さらに、DYCLEは一連の工程で生成される資源を一つの輪に留まらせるのではなく、上図のように資源のあらゆる要素を有効活用し、様々な循環の輪を作り出して広げている。例えばおむつを堆肥化し、その堆肥を使って育てた木からは、果実だけでなく、剪定した枝もカスケード利用しているのだ。枝は廃棄せずにおむつに混ぜる炭に加工され、再度堆肥となり土へと戻る。このように、各工程で生成される資源を無駄なく活用し、循環させる仕組みになっているのである。

地域のつながりを構築


サーキュラーエコノミーを考える時に生産方法や素材など、既存のものから少し変更を加えるだけではなく、システム自体を変えていかなくては成り立たないと松坂さんは語る。

「DYCLEはシステムチェンジを意識して新たなモデルを作っています。支援してくれる地域の行政や、おむつを作る人がいて、保育園、コンポスト会社、木を植えるNGO、農家など、地域のあらゆるステークホルダーがコミットして作りあげた仕組みです。多くの人の協力が必要なためとても時間がかかりますが、あらゆる人が協力しなければ本当の意味での循環は創れません」

現状のDYCLEの仕組みを成立させるためには、地域の回収所が住宅地から徒歩圏内にある必要がある。そのため、ドイツのフリードリヒスハイン=クロイツベルクという地区の5〜6カ所で、24時間誰でも入れるような回収所を設置する予定だという。

現段階の最善を尽くして、心地よく使うための丁寧なコミュニケーションやサポートに注力している点も特徴的だった。

「DYCLEの生分解性のおむつには化学繊維を入れていません。それが理由で、現時点のDYCLEのおむつは、通常のおむつに比べて頻繁に取り替えなくてはいけません。しかし、その課題に対して商品を創る技術や完成度を高めなければならないのですが、私たちはスタートアップなので技術向上の限界があります。ですので、私たちの考えでは、赤ちゃんが排泄するタイミングを見分けることができるワークショップなどを実施し、よりソフト面に焦点を当てたサポートをしています」

オランダ
親に向けた説明会を行う様子
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文=瀧田 桃子

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