ビジネス

2021.08.06

「変わらない」は違う。サッポロのマーケターは看板商品をどう変えたか?

サッポロの看板商品のマーケティングを担当する齋藤愛子(左)と沖井尊子(右)


「時代に逆らい、頑なに変わろうとしないのは、社内の皆も『違う』と思っているはずですが、リブランディングを考えていると社内に伝えるのには緊張しましたね。どのタイミングで、何を話すのかには、かなり慎重になりましたし、まだまだこれからだと考えています」(沖井)

「黒ラベルは、社員の思いも強いし、お客様からの目も良い意味で厳しいので、『らしくないこと』が絶対できないブランドです。その一方で、ロングセラーブランドが生き残っていくには、新しいお客様を常に取り込み続ける必要もあります。だからこそ、施策を検討するときは、どこまで挑戦をして、どこを守るかのせめぎ合いに苦労します」(齋藤)

歴史とともに築き上げていたブランドイメージへの配慮と新しい挑戦のバランス感覚が重要だ。

「課題に向き合え」と感じさせられたコロナ禍


コロナ禍で個人による消費が増えているとはいえ、売り上げの大部分を占めている飲食店の営業自粛や酒類提供の制限により、大きな打撃を受けているビール業界。ふたりはどのように捉えているのだろうか。

「もちろん売り上げに影響はありますが、固定観念を崩す良いきっかけにはなりました。当たり前だったお客様との接点がなくなってしまったことで、いずれ考えようと思っていた課題を、急に突きつけられたようです」(齋藤)

コロナ禍の2021年1月には、大人の一歩を踏み出す若者に、お祝いの機会を提供できないかと、黒ラベルが主催で、有名アーティストによる音楽イベントの「ライブ配信」を行った。アーカイブ配信を含めた視聴者は18万人超え。数万件規模のコメントが寄せられ、「お客様とダイレクトに繋がれて、手応えを感じた」と、齋藤は振り返る。

コロナ禍は、意外なところでも追い風となっている。

「リブランディングの一環でヱビスビールの価値を再定義した際に、『徐々に変化していくだろう』と予想したお客様の生活スタイルの変化や多様化が、急に来たような感覚です。こんなときだからこそ、ビールとどんな時間が過ごせるかが求められているように思います」(沖井)

近年、贈り物やフォーマルギフトの市場は縮小傾向にあったが、コロナ禍で帰省を自粛した層による需要が増えているという。

「コロナ禍で娯楽が制限されるなか、SNSを見ていると『1日の終わりに飲むビールが楽しみ』という声を見かけて、ビールって単なる飲み物だけど、エンターテイメントなのだと気付きました。改めて、ビールの価値に誇りを感じるきっかけになりましたね」(齋藤)

コロナ禍をポジティブなものと捉えられるのは、消費者の価値観に寄り添い、敏感に拾いあげているからこそできることなのだろう。ブランドイメージの構築に終わりはない。社会の変化に合わせて、進化していく2つのビールブランドに今後も注目していきたい。

2人のマーケターの写真

 

文=井上榛香 写真=西川節子

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