ビジネス

2021.07.30 10:00

コロナ禍の1年で60代以上もデジタル化した、米国の購買行動


しかし今回、米国内の消費者全員が影響を受けたコロナ禍では、シニア層が若者より先に、積極的にECでグローサリーを購買するという行動変容がみられた。どの年齢層に属する消費者も、一斉にECでのグローサリー購買を活用し始め、需要が高すぎて配達のキャパシティを短期間に超えた。実際、Amazonにおける生鮮食品の購買はコロナ禍に突入してすぐにキャパシティをオーバーし、2週間先までオーダーを入れることが出来ないという状況になった地域が多発していた。配達の外注業者を増やす、配送センターを分散する、店舗を一部閉めて配達拠点にする(ダークストア)などでも対抗したが、Amazonであっても増やせるキャパシティには限りがあった。

この、「配達を注文することができない」という背景も後押しし、シニア層を含めてBOPIS、特にカーブサイドピックアップを利用する消費者が一気に増えた。今まで一般的だった購買行動である、「店頭で商品を選び、カゴに入れ、レジで会計をする」ことに比べて、BOPISは格段に人との接触機会を減らすことができる。5年かけてシニア層にまで浸透すると見込まれていた食品購買のデジタル活用が、コロナ禍という状況に後押しされて、たった5カ月で全ての年齢層の間で進んだのである。

この消費者の購買行動の変容は、流通にどんな変化を与えたか。


BOPISを活用できることになったことが、グローサリーオンライン売上高の急激な増加へつながった。Mercatus社のデータによると、グローサリーのオンライン購買率は2018年には2.7%、 2019年には3.4%であり、コロナ前までの伸びは緩やかだった。日本同様、購買へのオンラインのシフトが一番遅れていたカテゴリーは、グローサリーのカテゴリーだったのである。

年齢を超えて、グローサリーのオンライン購買が一気に進んだ結果、2020年の購買率は、10.2%まで一気に跳ね上がった。Mercatus社は、2025年には米国グローサリーの21.5%がオンラインで購買されると予測している。このように、消費者の購買行動の変化を受けて、食料品をオンラインで購買することが米国では一気に主流となった。

米国グローサリーのオンライン購買率の変化と成長予測

米国グローサリーのオンライン購買率の変化と成長予測のグラフ
米国グローサリーのオンライン購買率の変化と成長予測(出典:Mercatus

この10.2%という数字は、米国全土のあらゆる小売店を総合した、グローサリーのオンライン購買率である。この前年比+6.8%という伸び大きく寄与したのは、前述したようにBOPISや、特に多数のオーダーをさばくことができるカーブサイドピックアップだったとみられている。

WalmartやTargetを初めとする大手流通は、これらのBOPISを整備していたため、この米国平均よりも高い割合でオンラインでのグローサリー購買が行われていたと予想される。一方、BOPISの導入が遅れていた、例えば中小チェーンの店舗などは、この割合がぐっと低かったのではないだろうか。

2021年1月のNRFで登壇したWalmartは、「5年の変化が自分たちの会社では5週間で起こった(5カ月でなく)」と語り、 「BOPIS受け取りのタイムスロットをコロナ以前の40倍に増やした」と発表していた。恐るべき進化である。このことを鑑みるに、中小チェーンも消費者の行動変容に合わせてBOPIS等の仕組みの導入を急ぎ、オンラインのグローサリー販売に力を入れた場合、Mercatus社の予測している「2025年にグローサリーのオンライン率が21.5%」というのは, 妥当な予測ではないかと思う。

デジタル化を含め、仕組みの導入が完了し、当初は最低5年かかると思われていた消費者の購買行動が年代を超えて一気に変容した米国流通。これからどんな変化を見せてくれるのか、この先が楽しみであり、驚異でもある。


連載:米国の破壊的イノベーション、その最前線
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文=射場瞬 前橋史子

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