例えば、陸上自衛隊の場合、駆け足訓練などを行う際には必ず、連隊長(1佐クラス)が先頭を走る。航空自衛隊で言えば、飛行訓練の際には飛行隊長(2佐クラス)が1番機に搭乗して最初に空に上がる。陸自の連隊長は千人前後、空自の飛行隊長は20機くらいを束ねる。それぞれの戦闘集団のトップが最初に行動するのは、「有事でも一番危険な役目を引き受ける」という姿をアピールする狙いがある。元将官は「軍隊において、死んでこいという命令は絶対にありえません。でも、相当危険な任務を命じざるを得ない局面はありうる。そのときに部下が従ってくれるかどうかは、普段の上官の行いにかかってくるわけです」と話す。
また、米軍は死亡した兵士の遺骨を最上級の礼をもって扱う。2018年夏、米軍は北朝鮮から朝鮮戦争で行方不明になった米軍兵士の遺骨を受け取った。韓国・烏山の米空軍基地で行われた式典は非常に荘厳なものだった。駐韓米国大使や在韓米軍司令官らが直立不動で見守るなか、65年前に休戦になった戦争の犠牲者の遺骨が一柱ずつ、水色の国連旗に包まれたひつぎに収められ、まるで昨日戦死したかのように、丁寧に扱われた。米政府関係者は「死者に最大の敬意を払わなければ、戦争に参加する人間はいなくなる」と語っていた。
これに対し、北朝鮮軍は対照的だ。北朝鮮は過去、韓国大統領府(青瓦台)襲撃事件(1968年)やラングーン事件(1983年)などで、特殊部隊の兵士を投入したが、いずれも作戦遂行後の退路を準備していなかった。いわば片道切符の「特攻作戦」をやらされた形になった。自衛隊の元将官は「北朝鮮軍兵士は、最高指導者のためなら死をいとわないという強い思想統制を受けています。自爆テロをやるテロリストに近い存在でしょう。そんなことが、自衛隊や米軍で通用するわけもありません」と語る。
菅首相の振る舞いを見ていると、人事などで脅して縛るだけで、こうした気遣いがないように見える。また、国税庁などは、要請に従わない飲食店と酒類の取引停止を求める「事務連絡」を出していた。菅首相が本当に「承知していなかった」のであれば、政府組織を十分掌握していないことになる。元自衛隊将官が語る「管理」もできない状態なのかもしれない。もちろん、それは菅首相だけに限った問題ではない。元将官は「これは企業の経営者にも当てはまります。優れた経営判断をするだけが、経営者の仕事ではありません。部下をいかにやる気にさせるかも、経営者の大事な能力です」と語った。
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