日本も建材の輸入が細り、予定通りに住宅が建たないと騒がれている。ところが、6月に入って様相がガラリと変わった。
木材バブルは弾けた?
アメリカの木材価格が前月末と比べて50%以上も暴落したのだ。下げ幅としては過去最大だそうだ。また木材の先物価格も7月には約70%近く落ちている。アメリカの主要メディアは「木材バブルは弾けた」と報道し始めた。
価格のピークは5月7日。アメリカの木材単位(per thousand board feet)の終値が1670ドル50セントに達し、4月の6倍以上の高値を記録した。ところが、その後反転して6月末には半値以下の710ドルまで下落したのである。
今後の動きについては、8月末に350ドルまで下がるだろうと指摘するアナリストもいる。先物価格も500ドルを下回る見方もある。
その理由としては、あまりにも木材が高騰し、消費者がリフォームなどを控え始めたうえ、コロナ禍の収束が見え始め、経済活動が本格的に再開し、旅行など従来の消費にお金が回るようになったからだ。
値上がり基調の日本
では、日本はどうだろうか。このところ輸入建材の価格高騰を受けて国産材価格も上がっている。たとえば6月のヒノキの原木価格は昨秋と比べて約1.4倍、製品価格でも1.2倍になった。値上がり基調は続いている。
日本にウッドショックが波及したのは、今年3月頃。アメリカから半年以上遅れてやって来た。日本の林業は、その仕組み上すぐに増産するのは難しい。山主との契約や伐採届の提出などといった手続きや、人員、機材の確保などを考えると、早くても3か月かかると言われている。
実際、その通り6月頃からようやく増産へと動き出したのだ。しかしその矢先でのアメリカでの暴落である。
関係者も悩ましいだろう。もし今後輸入建材の価格も下がったら、供給量が増え、国産材需要も萎みかねない。ようやく市場に出てきた国産材の価格も下落しかねない。
そもそもウッドショックで木材が調達できない、あるいは高値で売り抜けたと騒いでいたのは、製材業界や建築業界である。肝心の林業界は、どこか他人事だった。なぜなら価格が上がったと言われても、山主や現場作業員にはほとんど還元されていないからだ。
Getty Images
それでも要望に応えて増産したのに、また値下げとなったら憤まんやる方ないだろう。ただアメリカの木材価格も、昨年前半は300~400ドルの範囲だったことと比べると、まだ2倍前後の水準だ。しかもヨーロッパや中国の住宅需要は旺盛で、木材の引き合いも高まっている。そのため今以上に下がることはないという見方も出ている。
木材は国際商品であり、世界中の需要と供給のバランスで価格も決まる。各国でも相場を睨み、先を読んで動く。日本の林業界から木材業界でもっとも欠けているのは、そんな海外の動向への目配りだろう。
関係者は、国産材を増産するべきか、あるいは従来の生産量を守るかの判断が迫られている。熟慮しないと、結果的にウッドショックに振り回されただけに終わりかねない。
田中淳夫(たなかあつお)◎森林ジャーナリスト。森から見た日本、そして世界をテーマに、自然科学分野だけでなく、林業や歴史、田舎暮らしなど社会問題まで幅広く扱う。著作は『森と日本人の1500年』『割り箸はもったいない?』『ゴルフ場は自然がいっぱい』『樹木葬という選択』『森は怪しいワンダーランド』 『絶望の林業』『獣害列島』など多数。
この著者の過去記事
・ウッドショック禍、日本の林業が「国産材増産」に踏み切れない理由