土に還る「おむつ」が生み出す、循環型地域コミュニティー

DYCLEのセット


おむつ
おむつのプロトタイプを作っているDYCLEメンバーの様子

「あの時私がやっていたことが他の人が続けてくれたんだ」といった声、「自分がやっていたことから進化している!」などど久しぶりに戻ってきた人やいま関わっている人同士も交流でき、一人一人の可能性を活かせる場づくりを行いながら、みんなで作り上げる楽しさを実感しているという。

「DYCLEが主軸をおくブルーエコノミーのなかに、『さまざまな人の利益に還元する』という思想があります。自分だけが利益を被るビジネスはいつか自然や人の健康を歪めてしまうかもしれません。こうしてさまざまな人を受け入れ、あらゆる人にとってメリットがある取り組みでありたいと考えています」

アーティスト活動から始まった「土づくり」


「我々が注力しているのは、生分解性のおむつづくりではなく、おむつと排泄物から作る土づくりです」

そう話す松坂さんは、DYCLEはおむつを製造するためだけではなく、「土」づくりを追求するために存在する会社だと強調した。では、松坂さん自身が土に着目するまでにはどのような道を歩んできたのだろうか。

松坂さんは長年、コンセプチュアルアーティストとして海外を中心に市民参加型のアートプロジェクトを続けてきた。自然と関わるプロジェクトを手掛けるなかで、堆肥への関心が湧いたのだという。

「地域で収穫されていない果物を活用してジャムを作り、地域の人へシェアするプロジェクトなど、自然から与えられためぐみを活用したアートプロジェクトをしていました。そんななか、フィンランドの森でプロジェクトを実施していた時にコンポストトイレを使用しました。そのコンポストトイレを掃除すると、トイレを頻繁に使っていた方が夏によくブルーベリーを食べていたことに目が留まったのです。

そしてコンポストトイレからつくった堆肥を溜めていた場所にブルーベリーの木が実っているのを見て、人が口にして消化しきれない種が体内に残り、それが排出され、発芽して、ブルーベリーに育ったものをいま私が食べているのではないかという感覚に陥ったのです」

その時、本当に自分の体から出たものを使って土を作る事が出来るのかという疑問が残ったという。そこで、2010年から約1年半かけて、土の科学者と一緒に人間の排泄物から衛生的な堆肥を生み出す方法を研究を進めた。その研究の成果を活かし、自分たちの排泄物を堆肥化した土を使って野菜を育て、サラダを食べて排泄するといった「All My Cycle」という名のプロジェクトを開始するに至ったのだ。

リサイクル
All My Cycleプロジェクトをしている松坂さん

DYCLE設立のきっかけとなった気づき


日々都市で暮らしていると自然から遠くなりがちだが、人は酸素を吸い、二酸化炭素を排出することに始まり、自然の一部として生かされているのである。自分の体内にあったものから土をつくる活動に対して「自然とリンクすることができるという感覚に魅力を感じました」と松坂さんは目を輝かせた。

しかし、土づくりの追求を軸にアートプロジェクトを展開していた松坂さんはなぜ、おむつづくりにまで手を広げたのだろうか。当時を振り返り、松坂さんはDYCLE設立までの過去を振り返る。
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文=瀧田 桃子

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