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ペイロール 代表取締役社長兼CEO 湯浅哲哉

バイアウト投資によって投資先企業の価値向上と永続的な成長を支援するクレアシオン・キャピタルが「日本の宝」と評する企業を紹介する連載企画。
第3回は、日本の給与計算業務アウトソーシング市場を開拓し、名だたる企業にソフトインフラを提供するペイロールの独自戦略にフォーカスする。


企業を取り巻く環境の変化が著しいなか、社会および自社の課題解決に向けて経営戦略を実行するためには、経営資源の「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を最大限に活用していくマネジメントが必須となる。この否応なき大前提に立ったとき、業績躍進のカギのひとつとなるのが「戦略人事」だ。

例えば、DXを推進するための人材採用と組織づくり、AI活用のための人材教育プログラムの運用など、これからの人事は「ヒト」という資源の側面から積極的に経営戦略に参画して、企業の変革をリードしていかなければならない。人事労務を担うバックオフィスの部門も一丸となって、事業目標の達成に向けて攻めの業務を遂行することが求められている。

そうした戦略人事の実行にあたり、人事労務担当者の大きな障壁となってしまうのが、「既存業務に圧迫され、十分な人員と時間が確保できない」という現状だ。アウトソーシングの活用により、限られたリソースの選択と集中を行うことも検討しなければならないだろう。採用や育成といった「競合他社と差別化すべきポイント」については自社で徹底的に価値向上を図り、給与計算にまつわる業務のように「競合他社とも標準化できるポイント」については外部委託でまかなうのが、賢い選択ではないだろうか。

柔軟にして揺るぎないサービスとは


ペイロールは、給与計算業務のアウトソーシングサービスを提供する会社だ。自社の社会的使命について、代表取締役社長の湯浅哲哉は次のように語る。

「水道や道路といったハードインフラとともに、給与計算の仕組みや運用ノウハウはソフトインフラとして、社会にとってなくてはならないものです。蛇口をひねると必ず水が出るように、銀行に行くと間違いなく給与が振り込まれている。そうした当たり前が個人の生活や企業活動の基盤となります。私たちは、給与計算業務のプロフェッショナルとして『専門性・安全性・確実性・効率性』を徹底的に追求し、水道・電気・ガス・電車などと同様に強固なインフラとしての使命を全うしていきます」

現在、ペイロールのサービスを導入している企業は258社(21年3月現在)だ。従業員数にして合計約100万人がペイロールによって提供されたソフトインフラの恩恵を受けている。企業数・従業員数のどちらも業界最⼤規模となっているが、こうしたポジションメイクを可能にした強みはどこにあるのだろうか。

「企業ごとに存在する手当てや福利厚生などの多様性に対応するのはもちろん、『働き方改革による制度・規程の変化』『グローバル化に伴う外国人の就業なども含めた人材の変化』『源泉徴収制度の改正など法律の変化』といった変動事項に対しても常に柔軟にアップデートを重ねています。クラウドサービスによって人事部門や各地の拠点、従業員個人と各種デバイスでつながっているので、ジャストインタイムな対応が可能です。また、給与計算業務のみならず、その周辺業務まで幅広く行っているのも当社の強みです。コールセンターで各拠点や従業員個人からの問い合わせを受け付けたり、各種書類の発送・回収・督促を行ったりなど、直接対応業務も受託しています。企業がコア業務に特化できるようにフルスコープ型のアウトソーシングサービスを展開しているのです」

給与計算にまつわる業務でシステムがカバーできるのは、約40%だという。計算前後に発⽣するさまざまな業務、申請書類の確認や各種問い合わせ対応など、⼈が担う部分は60%を占める。この60%までをカバーしているアウトソーサーは少ない。

ペイロールが給与計算のアウトソーシング事業者として有する競争優位性は、「クラウドベースのWebサービス」「各社各様の規程を実現する給与計算エンジン」「きめ細やかな人的オペレーション業務」の3つを取り揃えていることだ。これらを統合的に提供する「フルスコープ型アウトソーシング」で顧客のニーズを満たしている国内の事業者は、現状においてペイロールのみだという。

従業員・拠点・外部機関に対応する窓⼝業務を担っているのは、ペイロール独自のBPOセンターだ。主に北海道BPOセンターに機能を集約させているが、長崎BPOセンターでも人的オペレーション業務の一部を推進している。さらに、今年の7月には四国の高松にもBPOセンターを開設した。

「新たなBPOセンターの開設は、事業拡大に伴う投資の意味合いに加えて、自然災害などによる業務停止リスクを減じるための決断でもあります。いかなるときでも給与の振り込みを止めるわけにはいきません。独自の基幹システム『P3』が複数拠点で並行して稼働することで、以前にも増して業務の安定化が実現しました。お客様(企業と従業員)は、一段と深く安心してサービスを活用していただけるようになっています」

北海道・長崎・高松のBPOセンターが有機的に結び付いているだけではない。東京本社にあって運用統括を担うプロセス部門の機能は北海道プロセスセンターにも集められており、サービスの導入を担うセットアップ部門は北海道セットアップセンターにも置かれている。有事に対応できる体制でも競合他社を突き放しているのだ。水道や道路などのハードインフラは災害によって寸断されることもある。

だが、ペイロールが構築したソフトインフラは盤石だ。ペイロールが打ち立てたサービスの体系化と危機管理は、給与計算アウトソーシングへ新規参入を目論む事業者にとって大きな壁にもなる。


ペイロール 代表取締役社長兼CEO 湯浅哲哉

給与計算アウトソーシングの先駆者


なぜ、ペイロールは業界のトップランナーになりえたのか。その答えの一端は、創業時から進化を重ねてきた思想にある。

「いまでこそ、アウトソーシングは開発・生産・営業・物流・人事・経理などのあらゆる業務で実施されるようになっていますが、国内でアウトソーシングという言葉が用いられるようになったのは1990年代前半のことでした。私たちの創業は、89年。個人事業主を対象とした所得税申告の記帳代行業務からスタートしています。まだ、アウトソーシングやベンチャーの概念が広く認知されていなかった時代からアウトソーシングベンチャーとしての歩みを始めていたのです。お客様の一人ひとりと向き合って、それぞれのニーズをくみ取り、気持ちよくサービスを受けていただく。こうした考え方は、私たちが創業期から連綿と積み上げ、磨き抜いてきたものになります」

創業から7年目には、ペイロールの未来を決定づける出来事があった。湯浅は、アメリカ視察で変革の基点と遭遇している。

「96年にニュージャージー州のADP(Automatic Data Processing,Inc.)という会社を見学させてもらいました。アメリカでは、現在に至るまで給与の支払いは小切手が主流です。世界でも最大のソーシングベンダーとして、ADPは小切手を全米に配送していました。そのアウトソーシングの仕組みと規模の大きさに、私は衝撃を受けたのです。アメリカでは無数の企業が給与にまつわる業務を外部委託して、自分たちのコア業務にリソースを集約している。いずれは、日本もそうなると確信しました」

97年、湯浅は記帳代行業務から給与計算のフルアウトソーシングに事業主体を移した。99年には現業に特化している。それから20年以上が過ぎた。90年代からの失われた20年とともに歩み、あらゆる景気後退の局面を迎えても、ペイロールのソフトインフラを利用する従業員の総数(給与計算処理実績人数)は右肩上がりで伸びてきた。クラウドを軸としたサービスであるため、かつてアメリカで衝撃を受けた小切手の山のように物体として目に見えるものではないが、いまではおよそ100万人とその家族に当たり前のこととして給与を届けている。

新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた昨年以降も右肩上がりは継続中だ。むしろ、人流の抑制や対面接触の回避が求められるなかで、より一層のデジタル化や業務効率化が企業にとって急務となり、給与計算業務のアウトソーシングに対する需要は高まっている。生産性を上げ、事業の継続性を高めるための有効な打ち手として、導入を検討する企業が増えているのだ。


ペイロール 代表取締役社長兼CEO 湯浅哲哉

新規上場、そしてさらなる高みへ


創業から22年目を迎えた今年の6月22日、ペイロールは東京証券取引所マザーズ市場に新規上場を果たした。

「いま、私たちは第二創業期を迎えたと認識しています。例えば、DX、BPR(業務改革)、BCP(事業継続計画)、戦略人事といった89年の創業時において語られていなかったキーワードは、すべてが現在のペイロールのビジネスモデルとリンクしています。いままさに、時代の追い風が吹いているのです。高く帆を上げ、新たに出航すべきだと判断し、東証マザーズに新規上場する運びとなりました。ペイロールがメインターゲットとして見据えているのは、従業員が1,000人以上の企業です。日本には約4,000社が存在し、総計で約1,500万人が働いています。現状で受託できているのは258社・100万人なので、まだまだ開拓余地の大きい市場と言えます。すでにペイロールは競争優位性の高いビジネスモデルを確立していますが、驚異的な伸びしろもあるのです」

ペイロールの2016年から20年までの5年間における売上高の平均成長率は、10.2%を記録している。顧客開拓の余地を十分に残しているため、これから先も業績を伸ばしていくだろう。さらに、湯浅が直言した「時代の追い風」も、今後ますます強くなっていくと考えられる。本稿の冒頭でも取り上げたが、湯浅がDXなどとともに追い風の起点ととらえている「戦略人事」というキーワードは、今後の日本企業の命運を左右するものだ。

ペイロールのIPOには、時代の追い風のほかにもポジティブな要素があった。17年から投資を受けていたクレアシオン・キャピタルの存在だ。IPOを目指す会社とファンドのリレーションシップは、常にセンシティブな問題と言えよう。規則や規定に傾斜して組織が硬直化し、会社から柔軟な発想や行動力が失われてしまえば、継続的な成長は難しくなる。健全なる航海どころか、いつしか暗礁に乗り上げてしまうだろう。

だが、クレアシオン・キャピタルの支援について、湯浅は「オープンで柔らかい」と評している。これまでにクレアシオン・キャピタルは上場支援の実績を積み重ねてきた。そのノウハウの提供はもちろんのこと、営業をはじめとするビジネスの現場サポートからワクチンの職域接種といったコロナ対応に至るまで、丁寧に寄り添ってくれたという。時代の追い風を受けるだけでなく、こうして常に伴走してくれるパートナーとの信頼関係があったからこそ、ペイロールはIPOにこぎ着けることができたのだ。

97年に給与計算のフルアウトソーシングという大海に出航し、今年のIPOによって新たな出発点に立った湯浅は、さらなる未来を見据えている。

「これまでは給与計算業務のフルスコープ型アウトソーシングで企業が戦略人事を実現するためのお手伝いをしてきましたが、これからはHRの領域にもっと踏み込んで、幅広い提案も行っていけたらと考えています。

ペイロールでは『クラウドベースのWebサービス』『給与計算エンジン』『人的オペレーション業務』という3つの強みを、数多くの企業が『共同利用』するプラットフォームととらえてアップデートしていきます。『共同利用』は、業務を外部委託するという従来の単純な考え方とは異なり、深化していく可能性に満ちた概念です。業務効率が上がり、提供コストが下がるというメリットだけではなく、近い将来、さまざまに蓄積された知見やデータの発信基地としてのメリットも提供できるようになるはずです。そのプラットフォームで展開されるエコシステムにおいては、さらなるHRのサービスが求められることでしょう」

人的資源全般に関係するHRの業務は、いままさに重要性が語られている領域だ。18年の12月には、国際標準化機構(ISO)がISO30414を発表した。これは、国際的に統一された人的資源マネジメントの規格としては初となる。アメリカでは、この新基準に基づいて人的資源のレポーティングをすることが企業に義務化された。

こうした流れは今後も加速し、日本の企業も同様の取り組みが求められるだろう。当然、HRテクノロジーにおけるデータの利活用は最重要テーマとなる。給与計算にかかわる膨大なデータを有するペイロールは、ISO30414に準拠した情報を企業に提供し、その情報の活用方法も提案していこうと策をめぐらせている。



投資ファンドの目線

ペイロールは、マネージドサービス(同社の従業員が提供する初期導入から給与計算業務の運用に関する各種サービス)とクラウドサービス(同社のクラウドベースのシステムにより提供されるWebサービス)を用いた給与計算業務のBPOを主たる事業としています。1997年以来、給与計算アウトソーシングという事業分野のパイオニアとして市場を切り開いてきました。同社によるアウトソーシングサービスは、給与・定期賞与の計算はもちろん、年末調整補助業務や地方税特別徴収補助などの季節性業務、身上異動等の人事関連業務、従業員および各拠点との直接対応など、給与計算にかかわるさまざまな周辺業務をサポートしています。

このようなペイロール独自の「フルスコープ型アウトソーシング」が支持されている現況は、顧客満足度の高さを見ても明らかです。同社のサービスを継続して利用する顧客の割合は97%(21年3月末時点)で、非常に高い数字となっているのです。給与計算処理実績人数は100万人を超え、コロナ禍においても堅調に伸び続けています。

また、ペイロールは災害などに備えたBCP(事業継続計画)を整えているだけでなく、個人情報を預かる企業としてプライバシーマークおよびISMSの認証取得、SSAE18およびISAE3402に準拠したType2報告書など外部機関による各種認証・評価を受けており、セキュリティ対策でも給与計算業界をリードしています。顧客企業に確実で安心な業務を提供できるのが、多大なるアドバンテージとなっています。

クレアシオン・キャピタルは、「企業の成長を支えるソフトインフラとして、給与計算アウトソーシングで社会に貢献する」という湯浅社長の思いに共感し、2017年から出資を開始するとともにペイロールの躍進に伴走してきました。18年に基幹システムをクラウド型へと刷新し、19年に長崎BPOセンター、21年に高松BPOセンターを開設するなど、ペイロールは事業の骨格をたくましくするための投資を続けています。本年6月のIPOで調達した資金は基幹システムの機能強化に活用します。成長を加速させるエンジンとして、さらなる進化を遂げていくことでしょう。

給与計算が正確に行われ、給与が正しく支払われる。そして、国や地方自治体に税金が正しく納められ、社会保険や年金の支えになる。ペイロールの事業は、企業活動・社会活動の基盤です。クレアシオン・キャピタルは、「『日本の宝』への投資」を使命としています。ペイロールは、まさに「日本の宝」と言える企業なのです。


クレアシオン・キャピタル マネージングディレクター 浅野靖成

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ゆあさ・てつや◎ペイロール代表取締役社長兼CEO。1958年、北海道生まれ。千葉工業大学卒業後、東芝情報機器に入社。退社後の89年に記帳代行を事業とするベンチャー企業であり、ペイロールの前身となるコンフィデンスサービスを創業。90年代に日本ではじめて給与計算に特化したアウトソーサーとしてサービスの提供を開始。2021年6月、東京証券取引所マザーズ市場に新規上場。

あさの・やすなり◎クレアシオン・キャピタルマネージングディレクター。有限責任監査法人トーマツにおいて、法定監査業務、株式上場準備支援業務、M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、日系大手バイアウトファンドにおいて、プライベートエクイティ投資業務に従事し、2016年にクレアシオン・キャピタルに参画。一橋大学経済学部卒業。公認会計士。


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Promoted by クレアシオン・キャピタル 文=國領磨人 写真=後藤秀二 編集=高城昭夫

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