薄暗く狭いビルの入口を入ると、通路の先にエレベーターがある。4階まで上がると、そこでは中国各地の地方料理や小吃(シャオチー)と呼ばれる軽食を出す6つの店のブースが、簡素なテーブルと椅子だけが並ぶ狭いスペースを取り囲んでいる。
出店しているのは、ローカル中華の店ばかり。中華揚げパンの油条(ヨウティヤオ)や豆乳などの朝食を出す「友誼早餐(ゆうぎそうさん)」、麻辣四川料理の「香辣妹子(シャンラーメイズ)」、黒龍江(こくりゅうこう)省のロシア仕込みの腸詰や小吃を出す「哈尔滨熟食(ハルビンシュウシー)」、遼寧(りょうねい)省の大連風点心の「三宝粥店(さんぽうかゆてん)」、上海料理の「大沪邨(ダウツン)」、そして台湾料理の「匯豐齋(えほうさい)」だ。
人気のブースは台湾料理。現地で体験した夜市の味が懐かしい
中華のフードコートに日本の若者たちが
以前は中華火鍋屋だったこの場所にフードコートがオープンしたのは、2019年11月のこと。当初は、併設されている「友誼商店」という中華食材のスーパーに買い物のため訪れる首都圏在住の中国系やアジア系の人たちが多かった。中国系SNSであるWeChatや小紅書(RED)などを通じて噂を聞きつけた人たちが、故郷の懐かしい味を求めて訪れていたのだ。
ところが、昨年夏頃からツイッターやYouTubeでこの場所の様子を発信する人が現れ、週末には日本人の若者グループも訪れるようになった。
友誼食府を運営しているアジア食材輸入商社「友盛貿易」の長谷川聖人店長によれば、フードコートを始めたのは「火鍋屋が撤退することになり、食品売場を拡張することも考えたが、何人かのお客さんから、買い物のあとにひと休みできる場所がほしいと言われた」のがきっかけだったという。
中国や台湾では、ショッピングモールや地下鉄駅に直結する雑居ビルのスペースによくフードコートを見かける。客は食品売場で購入したドリンクや軽食をフードコートに持ち込んでもいいし、料理店で注文して食べてもいい。そんな大陸的な気安さや自由さが魅力なのかもしれない。
隣接する食材スーパーには、ここだけにしかない中華食材や香辛料が揃う
もっとも、友誼食府は、日本の人たちが訪れることは想定していなかったそうだ。なぜなら、中華食材をここに来て購入する日本の人たちはそれまでほとんどいなかったからだという。
では、彼らは何を求めてここを訪れるのだろうか。筆者の古い友人で旅行作家の岡崎大五さんが今年1月に始めた、フェイスブックの公開グループ「食べるぞ!世界の地元メシ」の盛況ぶりが、その理由を考えるうえで参考になる。