マイケルの死から12年、そして8年の訴訟期間を経て、先日ようやく連邦租税裁判所で解決に至ったこの訴訟の泥沼ぶりは、チャールズ・ディケンズの小説『荒涼館』に登場する「ジャーンディス対ジャーンディス訴訟」が、まるで交通違反の裁判に思えるほどだった。
マイケル・ジャクソンの遺産管理人と内国歳入庁(IRS:日本の国税庁に相当)とのあいだの紛争は、さまざまな理由から途方もなく複雑だった。それはまさに、マイケルの曲「Blood On The Dance Floor」さながらだった。この件についてもっと詳しく知りたい方には、ピーター・J・ライリーによるForbesのコラムの一読をおすすめする。とはいえ、この訴訟の核心はシンプルだ。遺産の価値はいくらだったのか? というものだ。
肖像権とイメージ
争点はあまりに多いのだが、ここでは最大級のものだけを取り上げよう。マイケルの肖像権とイメージの価値をどう評価するかだ。
彼の遺産管理人は、その価値は307万8000ドルで、遺産税の支払いが必要な水準を大きく下回ると主張した(訳注:米国の遺産税estate taxは、死者の全遺産に対して、相続人に分配される前に一括して課せられるもので、相続税inheritance taxとは異なる)。
一方、IRS査定官の主張はこれとは異なり、1億6130万7045ドルというものだった。連邦租税裁判所のマーク・V・ホームズ(Mark V. Holmes)判事は、適正な評価額は415万3912ドルであると判断し、マイケル・ジャクソン側の大きな勝利となった。ホームズ判事は事実上、IRSの査定はまったくの的外れだと述べたに等しい。
これが富裕税とどう関係するのだろう? 税務行政的に言うと、何もかもがつながっている。
バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州選出)やエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・マサチューセッツ州選出)が提唱する富裕税が導入された場合、納税者には毎年の資産評価が義務付けられる可能性がある。死亡時にたった一度行うのでさえひと苦労なのに、毎年行うとなったら、もはや税務行政上の悪夢にほかならない。マイケルの遺産をめぐって起きたような訴訟が無限に発生するだろう。IRSが提示する評価額に対し、裕福な納税者は、大枚をはたいて最高の財務顧問を雇い、評価額を下げさせるはずだ。
IRSは「Wanna Be Startin’ Somethin’(何か手を打つ)」かもしれないが、富裕層はさまざまな理由をつけて「Leave Me Alone(放っておいてくれ)」と言い返すだろう。