ミスコンへの軽蔑心と潜入任務。女性捜査官が相反するミッションを迫られたとき


彼女をフォローする男性は2人。1人目はFBI捜査官の同僚で、この事件の指揮官に任命されたエリック(ベンジャミン・ブラット)だ。

グレイシーとは悪態も叩き合う「男と男」のような関係で、若い恋人がいるイケメン男性。仕事を通し、危なっかしいグレイシ―の手綱を引いたり共闘したりと関係を深めていくことで、彼女の内面的な長所を改めて見出していく。

もちろんエリックが、ミスコン美女として変貌を遂げるグレイシーの外見にも魅了されたことは間違いないが、そこは眩しそうな視線や短い呟きでさりげなく表現され、本人に対してはその性格を褒める真面目なセリフを、後半でちゃんと言わせているところが良い。

もう1人は、美容専門家のヴィクター(マイケル・ケイン)。「女らしさ」のかけらもなかったグレイシーを、ミスコン出場者に相応しい「レディ」に生まれ変わらせることに注力する彼は、ゲイであることがほのめかされている。

グレイシーの歩き方から言葉遣いまで、ヴィクターが逐一ダメ出しし直させるシーンを見ると、「あ、これは『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授だな」とわかる。

歯と髪の手入れに始まり、ワックス脱毛、レーザー、パックと、ヴィクター率いる美容チームがよってたかってグレイシーの身体をいじりまくり、「理想像」に仕上げていくシークエンスは涙ぐましくも滑稽であり、ミスコンの裏舞台の描写としてなかなか皮肉が効いている。

ありのままの内面を評価してくれるエリックと、磨きをかけた外見を褒めてくれるヴィクター。この2人は、女性が愛する男性に求める2つの側面を表しているとも言えるだろう。

「ミスコンに出る女はバカ」?


ミスコンは近年、「女性をモノとして見ている」などの批判にも晒されているが、2001年のこのドラマにおけるミスコンの取り上げ方には、それなりのバランス感覚が感じられる。

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(c) 2000 Village Roadshow Films (BVI) Limited. All rights reserved.

例えば、FBIのチームでミスコン潜入捜査員を決める場面。さまざまな女性捜査官の全身画像を水着姿に加工し、皆で検討するシーンがある。ナイスバディな女性の画像には「おお~」と男性捜査官たちが声を上げたり、同じことを男性の画像で試して笑い転げたりと、セクハラとルッキズムの混合されたかなりきわどいシーンだが、他の女性捜査官のしかめ面や上司の叱責で、かろうじて均衡が取られている。
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文=大野 左紀子

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