ビジネス

2021.08.07

精神的にキツく割に合わない現実。単に「起業しよう」は無責任だ

photo by LPETTET / iStock

最近の日本は以前にも増して、行政レベルでスタートアップを育成する動きが多く見られる。実際自分も、いくつかのプログラムでメンターをさせていただいている。

専門はデザインであるが、もともと起業家とスタートアップが多いサンフランシスコ地域で経営していることもあり、スタートアップサービスの作り方や育て方もそれなりに理解しているつもり。

そんなこともあって、以前より学生向けのピッチコンテストからグローバル起業家育成プログラムまで、多くのスタートアップ育成に関わる事業に関わってきた。

メンタリングの際には、自分自身の経験をもとに、日本の起業家志望の方々に対して、まず伝えるようにするのは──、

「僕は君が起業家になることをオススメしない」

である。何言っちゃてんの?と感じるかもしれないが、これにはいくつか理由がある。

心が壊れてしまった十代の子達


複数のスタートアップ系イベントの中でも、高校生や大学生を対象とした起業家育成プログラム的なものも幾つかかある。このようなプログラムでは、起業家になることが素晴らしいという雰囲気が作られ、参加者に起業家を目指すことを期待する。

そんなプログラムに参加した十代の何名かが実際にサービスを作り起業をした。そして周りからは賞賛され、いくつかのイベントでも表彰され、メディアでも派手に祭り立てられた。

講義を聞く学生
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その後ビジネスを進めていく上で、お金の事やチーム作り、人間関係での困難に直面し、悩み、苦しみ、そして続けられなくなっていった姿を何度か目の当たりにもした。

これらの試練は起業家としては誰もが通るが、感受性が高い十代の若者にはかなり酷な状況だっただろうと想像ができる。

最初は周りの大人におだてられ、サービスが評価され、起業したことで注目を浴び、自己肯定感はMaxになる。

しかし、いざ上手くいかなくなった場合は、聞かされていたキラキラ世界とのギャップと、チームメンバーを含めた周りの人たちの態度の変化に当惑するだろう。そして、起業家という特性上、一人孤独に悩み苦しみ、諦めることになる。

失敗した際のサポートが提供されていない状態で十代の若者がこのような状態に陥ると、最悪の場合、心が壊れてしまう危険性がある。

起業 or 就職?


いくつかの日本の学生向けのプログラムに支援側として協力したことがあるが、その内容が色々な意味で、結構ガチなのである。参加者が自己紹介する時に、今後の進路として起業するか就職するかを宣言させるものもあった。

「僕は起業します。」「私は就職します。」と、まるで「ビーフ or チキン?」の勢いで宣言していることには少し違和感を抱く。

まだまだ将来何をしたいかが決まっていない段階で進路を決めるのは、はっきり言って難しい。その段階で起業家になるというプレッシャーをかけ、選択肢を狭め、自分を追い込む必要はない。

やりたいことが見えてきて、それを達成するための手段としてスタートアップを始めるのがよければそうすれば良いだけで、そのタイミングはいつ来るかもわからない。
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文=Brandon K.Hill(btrax Founder & CEO)

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