DXという言葉自体は、スウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマン(Erik Stolterman)が “Information Technology and the Good Life” の中で提唱したとされているが、2018年に経済産業省がDX推進ガイドラインを制定して以来日本でも一気に広まった。
しかし、現状DXの推進に成功したという日本企業の話はあまり多くは聞かない。
今回は日本企業のDX化がうまく進まない理由を考察した上で、今後どのようにDXを推進していくべきか議論していきたい。
日本企業のDX化が失敗する3つの理由
1. テクノロジーの導入に囚われている
先ほどのDX推進ガイドラインによると、DXとは、“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。” と定義されている。一言で言うと、「企業の事業戦略においてデジタルの力を有効に活用し競争優位を確立する」ということだ。
しかし日本では、特にIT業界の間でDXという言葉が広まってきた経緯もあり、IT部門の変革、もしくはIT部門から他の部署に向けていかにデジタルインフラ・スキルを普及させていくのかという議論に終始しがちな印象がある。
しかし、変革という観点では、テクノロジーの導入自体よりも、まずは下地となるカルチャーを醸成し、組織としてよりスピーディーに変化に対応できる能力を磨いていくことが必要である。
2. ソリューションにフォーカスしすぎている
デジタル・トランスフォーメーションという言葉自体がソリューション提供側の視点と言えるが、ビジネスモデルの軸が「プロダクト」から「ユーザー体験」に変化している現代においては、ユーザー側の課題(Problem)を正しく捉えた上で、どのように解決していくか(Solution)を考えていくことが必要となる。
そこで登場するのが「デザイン思考」というキーワードだ。過去に弊社もクライアント企業からDX人材を育成したいのでデザイン思考をもっと学びたいという依頼をよくいただいた。
実際にクライアント向けにデザイン思考のワークショップを実施してきたが、いきなりソリューションを考え始めてしまったり、課題を設定できたとしてもなかなか深い理解に至るのが難しかったりする局面を何度も目の当たりにしてきた。そして、後者に関して特に理解するのが難しいポイントが「お客様第一主義とユーザー中心デザインの違い」である。
illustrated by Rassco /iStock
日本の企業は「御用聞き営業」と言われるように、顧客の声を拾うことには昔から長けているが、顧客が表面的に言っていることを真に受けてそのままの要望を取り入れてしまうケースが後を絶たない。
どんなに革新的なデジタル技術を活用できたとしても、ユーザーの発言の裏にある潜在的なニーズまで深掘りできなければ、ヘンリー・フォードの格言にある「もっと早い馬」を作ることになりかねない。
“もし人々に何が欲しいかと聞いていたら、彼らはもっと早い馬が欲しいと答えていただろう。 – Henry Ford ”
3. DX化自体が目的化してしている
また、トップからの号令でDX推進を旗印に掲げている企業も少なくないが、トップダウンで進めること自体は悪いことではないものの、DX化はあくまで目的ではなく手段であることを忘れてはならない。
社内の変革を実現することもはちろん大事だが、本来の目的は**デジタルの力を活用して社会・ユーザーニーズに対応していくことであり、トップがDX化を推進することで最終的にその先のユーザーや社会に対してどのような価値を提供していくのかというビジョンと合わせて伝えていかなければ、自社の存在価値を示していくことは難しい。