ホテルから海のその先に眺めることができる加計呂麻島は、奄美大島の港からボートで20分程で到着する。総面積の95%が山林が占める、秘境の地だ。島の周囲は約150km。島の人口は約1400人で、30の集落が点在し、それぞれ異なる雰囲気を持つという。
筆者が訪れたのは、武名集落。そこには「武名のガジュマル」という名所が存在する。ガジュマルと言えば、垂れ下がる気根が特徴で、成長した気根はアスファルトなども突き破る強さを持っていることから、強い生命力の象徴として見られ、「健康」という花言葉をもつ。
またガジュマルは、「多幸の木」とも呼ばれる。奄美では、ガジュマルにはケンムンと呼ばれる妖怪が住んでいると言い伝えられ、集落では古くから「神が宿る木」として大切にされてきた。
そんなガジュマルの巨木に囲まれ、静けさの中に佇むと、その言い伝えを知ってか、神々しさが木々から伝わってくるような気がする。ただ、その神秘性は、ガジュマルという木そのものや、パワースポットと呼ばれるその場所という理由だけでは恐らく語れない、荘厳な大自然への畏怖であることに気づく。
自らと向き合う
3日間、奄美大島のTHE SCENEに滞在してみて気づいたこと。それは、自然の中で過ごすことは、すなわち、心と体を浄化し、従来の姿にチューニングする作業であるということだった。
また、奄美の島が自身にもたらしてくれたのは、美しい自然が誘発する「癒やし」を享受するなどという、人間に都合よく解釈するコントローラブルな自然への感情ではなかった。自然に対し従属、共存させていただかなければならないという、畏敬の念。それはつまり、人こそが「万物の霊長」だとする驕りからの解放でもあった。
日が昇ったら活動し、日が落ちたら眠る。社会のノイズを最低限にまで落とした、本来の人間らしい生活。そして、自然との調和。この旅がもたらしてくれたものは、自然を介して、自らという本質に向き合う純然たる時間であった。