──熱海の件で「盛り土」に注目が集まっていますが、斜面リスクとの関係性とは。
千葉:土木分野では、道路や宅地造成のために平らな土地を作るために、それぞれ定められた技術指針に則って施工されたものを「盛り土」と言っています。河川の堤防も盛り土です。技術指針では使用する地盤の材料に応じた角度や高さが決められており、大雨が降ったとしても不安定にならないように排水に関しても安全に設計しています。
蚊爪:盛り土の種類の中には、むしろ斜面が崩れるのを抑える目的の「押え盛り土」という工法もあります。よって、盛り土があること=斜面リスクに繋がるものではありません。今回の熱海のケースは、かなり特殊な事例と言えます。通常、盛り土を施工する前には、土木工学的に安定性が保たれるか検討しなくてはいけません。
山奥まで広がる人間の暮らし どこにでもある災害リスク
──土砂災害リスクが高いのはどのような場所でしょうか。
千葉:土砂災害警戒区域(通称、イエローゾーン)は全国に約66万箇所、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は約55万箇所あるとされています。これらを定める土砂災害防止法が施行されるきっかけになった広島県には、全国でもっとも多い4万8000カ所あります。なぜ多いのかというと、山が多いことに加えて山の奥の方まで土地が造成され、人間の生活が広がっているからだと考えられます。
蚊爪:イエローゾーン、レッドゾーンいずれも人命にリスクがあるところが設定されていますが、その中で特にリスクが高い場所がどこか、優劣をつける手立てがない状況です。都道府県別にみると、その箇所が多い/少ないというのはありますが、特別に危険性がある場所は分かりません。つまり、どこでも災害リスクがあり得るということです。
7月4日に撮影された、熱海の土石流の被害を受けた現場 (Getty Images)
──山地や森林を切り開いて、太陽光パネルを設置することによる土砂災害や水害リスクが指摘されていますが、この点について必要な対策とは。
千葉:一般的に太陽光発電の建設時には南側に向けて平滑な斜面をつくるか、出っ張っているところを削る切土や、凹んだ部分を埋める「谷埋め盛り土」などを行います。土砂災害の対策としては、地盤の強度に応じて雨が降っても崩れないように排水処理も含めて対策するのが基本です。
水害については、太陽光パネルだけでなく宅地造成でも同じですが、もともと木が生えている自然な状態の山であれば、雨が降っても土や木に一時的に貯水され、急に水が流れ出ないようになっています。
ですが、造成された山だと、しばらく木が生えなかったり、アスファルトに覆われたりしているので、降った雨がすぐに流れていきます。すると、今まで流れなかった量の水が流れて下流で災害が起きる危険性があるので、下流部分に一時的に水を貯められる調整池をつくるなどして緩やかに流すようにします。