いつどこで起きてもおかしくない 土砂災害と豪雨から身を守るには?

7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区で発生した大規模な土石流。19日現在、現場では捜索活動が続く (Getty Images)

静岡県熱海市で発生した大規模な土石流。山が崩れ落ち、雨水を含んだ土砂が家屋や建物を次々と破壊し、押し流していく。SNSで拡散された被災時の映像を見て、驚きや恐怖を感じた人も多いだろう。

熱海で被害を拡大させた要因として、上流部分に堆積した大規模な盛り土が崩れたことが指摘されており、静岡県が原因究明を進めている。今回の甚大な被害を受け、全国各地で危険な箇所の緊急点検が進められるが、そもそも耳慣れない「盛り土」とは何なのか。

建物が壊れるなど、大きな被害が出るおそれのある「土砂災害警戒区域」は全国に66万箇所に及ぶ。どうしたら土砂災害を防ぐことができるのだろうか。また身を守るためにはどうしたらいいか。

防災・減災事業やインフラ整備にかかる地質調査などを手がける企業「応用地質」(東京都千代田区)の斜面防災のプロフェッショナル、千葉伸一氏と蚊爪康典氏に話を聞いた。


土石流の発生前に予知できなかったのか


──まず、土砂災害のメカニズムについて教えてください。


千葉:日本の土砂災害は3つの現象に分けて対策事業が行われています。1つ目は土石流。水や土砂、岩石が一緒になって流れてくるもので、今回の熱海の災害はこれに当てはまります。

2つ目はいわゆる崖崩れ、正式名称は「急傾斜地の崩壊」です。傾斜が急な斜面の地表面付近が風化した地層や土壌で覆われているなど、地盤の強度が弱い層に雨が降って水が染み込み、地盤の抵抗力が弱まることによって崩壊を引き起こす現象です。裏山が崩れたニュースなどがありますね。崖崩れの形態は日本で一番多く、国土交通省によると、発生数全体の7割を占めます。

3つ目は地すべり。急激に大きく動くことは少ないですが、斜面に水が染み込み、地下水位が上がることで浮力が働き、斜面が一体になって広い範囲で動くことで、家や道路などに被害を及ぼします。

いずれも水と斜面と地球の重力の3つが加わって、高いところにあるものが下に移動するメカニズムです。また、人の生活が入り込んでいない山中で発生すれば、土砂災害とは言わず、自然現象になります。家や道路があり、人が被害を受けるからこそ、土砂災害と言うのです。

──土砂災害の前兆現象とは。熱海の場合、あれだけ大規模な土石流が発生する前に予知できなかったのかと思いますが、どうでしょうか。

千葉:一般的な前兆現象としては、崖崩れの場合は小石がパラパラと落ちてくる、斜面から水が湧き出るなど。土石流の場合は、斜面や山の方から土の匂いがする、沢の水が濁るなどがあります。

土砂災害が起きる前には多くの場合、雨がたくさん降ります。それが地中に多く溜まることで水が湧き出たり、斜面が動き出して小規模に崩れることで落石が生じたり、土砂が沢水に混ざることで濁ったり、さらに新しく崩れた面が露出することで土の匂いがしたりするのでしょう。

蚊爪:熱海の件は静岡県が調査を進めるとのことで詳しいことは分かりかねますが、一般的に、現在の技術では土石流の前兆現象を把握するのは難しいのが現状です。
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文=督あかり

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