感染者や入院患者が急増するなかでの規制全廃は、“吉と出るか凶と出るか”のギャンブルだ。壮大な社会実験といってよい。
とはいえ、英国の夏は短い。秋冬になれば昨年とは異なりロックダウンがないためインフルエンザも2倍流行する予測があり、そうなればコロナと相まってNHS(英国家医療サービス)も逼迫する。そこへ新たな変異ウイルスが出現すれば、ロックダウンを完全に解除するチャンスは半永久的に無くなる。だから、ジョンソン首相が「今やらずしていつやるんだ!」というのにも頷ける。先のことは誰にもわからない。
英国では、早ければ9月から高齢者やハイリスク層を中心に開始される3回目のブースター(追加免疫)とインフルエンザワクチンの同時接種(両腕に一本ずつ)をすべく、その準備も着々と進んでいる。私の周りには今年1月に早々と2回目のワクチン接種を終えた高齢者も多い。抗体レベルが少しずつ低下するなか、タイマーは静かに時を刻む。
「自由とは責任と覚悟」ではなかろうか
経済の重要性は議論を待たないが、政策があまりに極端過ぎるならばコロナ初期に英政府が行なった「集団免疫実験」の時のように後で大きなリバウンドが来るので、ここは柔軟に、臨機応変に、ポリシーもどんどんマイナーチェンジを繰り返していけば良いのではと思う。前言撤回を恐れては相手の思う壺だ。なにせ、その相手は変幻自在のウイルスなのだから。
……と書いていたら、ロンドン市長が独断でバスや地下鉄・トラムなど公共交通機関内でのマスク着用義務付けを決定した。今のところイングランド内ではロンドンやマンチェスターなど一部の地域だけである。多様性と寛容性のある街ロンドンにして、イスラム教徒のサディク・カーン市長による頼もしい英断だ。
これまで、罰金があっても約14%はなんらかの理由で電車内でマスクをしていなかったという鉄道会社の統計データがある。また、56%のロンドンっこは「規制がない限りマスクを付けたくない」とアンケートで答えている。それだけに、これくらいのルールであるなら決して厳しいとは言えないし、ちょうどいい塩梅なのかもしれない。パンデミック以前からマスクに馴染みがあり、清潔への意識も高い日本とはベースが違うのだ。
かたや無観客を選択する国、かたや感染者3万人でマスクほぼ無しの観客6万人開催を許容する国。たまたま両極端すぎる日本と英国のカルチャーに身を置いているものとしては、色々と見えて面白い。
さて、「自由」とは「責任と覚悟」ではなかろうか。人混みや屋内では他人に迷惑をかけないよう適宜マスクをしたり、情報をきちんと取捨選択したりして、自分の身は自分で守るしかない。感染者が激増するなか正常化するイングランド。本当の意味での“ウィズコロナ”時代が到来したのだ。コロナとともに生きる覚悟は決まった。浮かれず恐れず、「新しい自由」をしばし楽しもうと思う。