消費者のハードルをどう下げる? 環境先進都市の「量り売り店」の試み

アムステルダムでも、量り売りの食料品店は数店だ(Getty Images)


小売店の力を最大限に利用する


一般的に、小売店は問屋や製造業者よりも有利な立場で商品の仕入れ交渉を進められることが多い。問屋・メーカーは「店頭に商品を並べてほしい」という強い想いを持っており、そのためには多少相手のほうに有利な条件でも飲んでしまう傾向があるのだ。多くの小売店はその購買力を「製品を少しでも安く仕入れるため」に使うが、ウィンターさんはその力を全く別の方向で活かすことにしたという。

「僕は『包装にプラスチックを使っているサプライヤーとは取引をしない』と宣言したんだ。店になんとしても品物を置きたいサプライヤーなら、そうした要求に応じてくれるはずだと思ったからね。そうしたら実際にいくつかの取引先が、プラスチックの使用をやめてくれたよ!」

シャンプーバー
Little Plant Pantryオリジナルのシャンプーバー。妻のマリアさんがプロデュースしている。毎週月曜日は店の営業をお休みし、店内でコスメの開発や製造を行うのだそう。

「一番良くないのは、店と町のみんなの間に隔たりがうまれてしまうこと、そしてそのまま店が立ち消えてしまうことだと思う」とウィンターさん。だからこそ、店とコミュニティが「互いに努力しあう」ことが大切だと考えているのだそうだ。

「今後は、この店を『僕ら夫婦の店』から『町のみんなの店』に変えていきたい。だって『自分の店』なら、今後も存続させていこうと心から思うことができるでしょう? いつかクラウドファンディングを行って、この店をユーザーとの共同所有で経営していきたいと思っているよ」

そんな夢を語ってくれたウィンターさん。

先に述べたように、量り売りは「消費者の労力を多く必要とするシステム」だ。つまり、消費者が「多少の労力を割くだけの価値がある」と思える店でなくては量り売りシステムは存続していかないということである。店側から一方的なプロモーションを仕掛けるのではなく、「消費者が店を所有し、生活の一部に組み込み、『自身の大切なもの』としてコミュニティとともに育てていく」という、ウィンターさんの目指す経営システムは、まさに理想的なものといえるだろう。

取材を終えると、ウィンターさんは「オランダに来たらまたおいで」と言って編集部を見送ってくれた。すっかり冷え込んだ店の外に出て、ショーウィンドウから店のなかをのぞく。入れ違いに入った客に「探し物かい?」と声をかける彼の姿が見えた。

この記事は、2020年2月にリリースされたCircular Economy Hubからの転載です。
(上記の記事はハーチの「IDEAS FOR GOOD」に掲載された記事を転載したものです)

連載:国内外のサーキュラーエコノミー最新動向
過去記事はこちら>>

文=IDEAS FOR GOOD 編集部

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事