ここぞ、というときに身に着ける1本

伊勢丹新宿本店長の栗原憲二さん。A. ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」を語る。


お話をうかがったのは伊勢丹新宿本店の栗原憲二本店長。この3月までは札幌丸井三越の社長のポジションにあり、現職には着任したばかりだということだ。

栗原さんは大学を卒業し、三越(現三越伊勢丹)に入社して以来三十数年間、ずっとデパートマンの道を歩んできている。接客のエキスパートと言ってもいいだろう。取材時も隙のないダブルのスーツを身にまとい現れた。

そのような人がどのような腕時計を選択しているのか、とても興味深い。ただ話を聞いていくと、栗原さんは相当な時計好きであることがわかった。お持ちのモデルも高級な名品ばかりで、とてもビジネスウォッチの領域ではない。「購入するタイミングはご褒美もありますし、自分を鼓舞したいときもあります。でもいちばん大きなポイントは、ほれちゃうということですね。もう目がくぎ付けになるんです。一度、間を置くこともあるんですけど、やっぱり戻っちゃうんですよ。それで結構高額なんですけど、即決で購入してしまうんですよ」

そうして購入したコレクションのなかでも、栗原さんがとくに思い入れのある時計として話してくれたのが、A.ランゲ&ゾーネの「ランゲ1」だった。「2008年に三越と伊勢丹が経営統合した時に、ちょうど私もMD政策担当部長になりまして、頑張らねばという時期だったので購入しました。ただ、同時期に気に入ったのがこのランゲ1ともう1本あったんです。予算の問題もあったので父に相談したら、ランゲ1は私が購入するので、もう1本のほうを買いなさい、と。私に何かあったら君にあげるから、と言われまして」

それで「ランゲ1」は、まずお父さまのものとなった。「父は大変気に入って着けてました」という腕時計は、現在栗原さんの腕にある。そんな思いもあって、何かスペシャルなとき、ここぞというときに着用するのが「ランゲ1」なのだという。

そんな栗原さんに時計選びのポイントを聞いてみた。

「基本的に時間と日付さえ正確にわかればいいので、コンプリケーションなど、それ以外の機能は必要ありません。ただ秒針だけは絶対に必要なんです。秒針の動きを見ていると、なぜか気が休まり、リフレッシュできるんです。それから、職人気質を垣間見ることができるので、メカが見えるシースルーバックであるといいですね」

ビジネスマンであることと、時計マニア的な興味が、絶妙なバランスで折り合っているようである。

1994年、復活後に最初につくられた記念すべきモデルであり、A.ランゲ&ゾーネのシンボルともいえる腕時計。時分計が左にオフセットされており、すべての針が重なることのない独創的なダイヤルをもちながら端正さを失わない完成されたデザイン。ランゲ1は、当時の時計界に大きな衝撃を与えた傑作だ。2015年にはリニューアルし、ムーブメントを変更。現在の「Cal.L121.1」を搭載している。

A. LANGE & SÖHNE Lange 1

ムーブメント:
手巻き Cal.L121.1
ケース素材:
18Kイエローゴールド
ケース径:
38.5mm
価 格:
4477000円
問い合わせ:
A.ランゲ&ゾーネ 0120-23-1845


栗原憲二◎東京都生まれ。1987年に三越(現三越伊勢丹)入社。営業本部MD統括部MD政策担当長を経て、三越千葉店長、三越日本橋本店営業統括部長、執行役員百貨店事業本部店舗運営部長を歴任。18年に札幌丸井三越社長、21年4月より現職。

text by Ryoji Fukutome | illustration by Adam Cruft

この記事は 「Forbes JAPAN No.083 2021年7月号(2021/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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