ビジネス

2021.07.16

「人材版伊藤レポート」の意義や本質とは


とはいえ、人的資本の価値は、必ずしも、社員個人の能力ばかりではない。組織としての経営戦略にそって業務を遂行する能力や、新しいビジネスモデルへの適応力も同様だ。そのためには、社員の能力や経験、専門性を見極め、「適所適材」に配置しなければならない。人材は社内だけではなく、社外から確保する必要も出てくるだろう。

「3C」トライアングルの連携


──だから、経営戦略と人材戦略は連動すべきだと提案している。

「人材版伊藤レポート」に基づいて、まずは先進企業20社にアンケートをとった。20社の自己評価が最も低かったのが、「人材投資の投資対効果を把握しているか」という質問だ。そして、その次が「経営戦略に人事戦略が連動しているか」という質問だった。それくらいまだ浸透していない。

では、なぜ連動できていなかったか。それは日本企業の人事部が調整型の管理部門だったからだ。ただ、現在は、グローバル化、デジタル化が進む企業の競争環境が大きく変化し、各企業のビジネスモデルや経営戦略が変わるなか、人材及び人材戦略とのギャップが大きくなっている。このギャップを把握し、埋めながら、新たなビジネスモデルや経営戦略を実行できるか、が鍵となる。

だからこそ、経営陣が企業理念や存在意義(パーパス)に立ち戻り、経営戦略を明確にしたうえで、人材戦略を策定・実行しなければならない。そのためにも、CHRO(最高人事責任者)、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)の「3C」のトライアングルや、CSO(最高経営戦略責任者)、CDO(最高デジタル責任者)を含めた「5C」のコミュニケーションや連携が非常に重要になる。

これまで「3C」は十分に連携が取れていなかったが、企業価値を高めるうえで、人的資本と財務資本をどう戦略的に配分するか、は極めて大事なテーマとなる。

こうした、資本市場からの関心が高まるなかで、機関投資家とCHROとの直接対話もはじまっている。「稼ぐ力が今後どれくらい高まるか」を投資家が注目するにあたり、「従業員エンゲージメント」や「従業員体験価値」といった要素も重要になるからだ。CHROは、どのようなKPI(重要業績評価指標)を用いて人的資本価値を向上しているか、という自社の取り組みについての発信や説明など、社内外との積極的な対話が求められるだろう。
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文=山本智之 イラストレーション=アレクサンダー・サビック

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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