ビジネス

2021.07.15

成長を生んだ、起業家精神の復活「個と徹底的に向き合った」理由

ライフネット生命保険 取締役副社長 執行役員 西田政之 

不可能を可能に変えて、新市場を開拓したライフネット生命保険。業績の踊り場から急成長に導く過程を人材戦略で支えたCHROが就任以降取り組んだことは。


国内初の独立系ネット専業生保として、新市場の開拓をしたライフネット生命保険。直近の2020年度第3四半期決算では、保有契約年換算保険料が前年同期比121.2%の179.2億円を記録するなど力強い成長を続けている。新規契約数は最も少なかった15年度と比較すると3倍強に、株価は同期間で4倍以上となるなど、V字回復を実現。この成長を人材面から支援したのが、15年に副社長に就任し、現在、副社長兼CHROの西田政之である。「一人ひとりと徹底的に向き合う」ことがCHROの重要な役割だという。

──就任後、変えたこと、変えなかったことは何か。

業績がボトムだった時期に就任し、最初に組織改革を実行した。当時は、12年3月に東証マザーズに上場し、いわゆるワイガヤのベンチャーから機能分化した組織へと移行する過渡期。創業者2人に依存した経営体制を見直し、「本部制」を導入した。5つの本部に設けた本部長に権限を移譲し、あえて階層化した。ポジションをつくり、ポテンシャルの高い人材を部長、マネジャーに抜てきした。

一方、変えなかったことは、理念ベースの経営だ。当社の特徴は、社員のほとんどが経営理念に共鳴・共感しているため、本当の意味で経営理念が経営判断の軸になっていること。だから、業績回復のために、何でもすることはせず、あくまでも、設立の意義を再確認し「どうすれば顧客のためになるか」を、経営はもちろん、個人の行動の判断基軸にし続けた。

──具体的な人事施策は。

「社員の挑戦と成長を促す」を人事戦略のテーマとした。資本を集め、保険業免許を独立系生保としては74年ぶりに新規取得して開業にこぎつけるなど、創業以来数々の挑戦を続けてきた。ただ、上場ゴールといわれるように、13年あたりから、次の成長目標を見失いかけていた。本来のベンチャー企業らしく、積極的にリスクテイクし、新しいことに挑戦する風土醸成や体制づくりに努めた。

例えば、ひとつは、新規事業施策のアイデアを募る社内公募の取り組み。採用されたアイデアは、その分野の担当役員が実施を義務付けられる。また、中途入社者全員に、入社3カ月時点で、会社のいい点、改善点、さらに新規施策提案の3つをセットにして役員会でプレゼンし、その場で社長が施策案実施の可否を決裁する機会をつくった。もうひとつは、全社的に1on1ミーティングを導入したことだ。とにかく個と向き合い、心理的安全性を確保しながら、リスクをとることや挑戦を奨励した。同時に、キャリアビジョンを話し合う機会を増やし、企業として社員の思いや目標をいかに実現できるか、を志向した。
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文=池田正史 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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