SDGsとは教育。京都の名料亭が「和久傳学校」と言われる理由

京都和久傳 小川大輔料理長


その後、京丹後の田畑や森が工業用の造成地にとってかわり、急速に豊かな自然が失われつつあることを嘆き、常連客の紹介で知り合った生態学者の宮脇昭さんの「いのちの森づくり」活動を知って感銘を受け、教えを受ける運びとなった。

宮脇さんは、土地本来の植生を中心に、その森を構成している多種類の樹種を混ぜて植樹する「混植・密植型植樹」を提唱し続けている第一人者だ。熱心な指導を受けながら、多彩な広葉樹のポット苗約3万本を植樹したのが14年ほど前のこと。木々はすくすくと育ち、今では「和久傳の森」と呼ばれる立派な森になっている。観光名所として、かの地に貢献しているばかりでなく、森に植生する木の芽や茗荷などはもちろん料理にも使われている。



今でこそ、エコ、エシカル、SDGsなどの言葉が流行語のように飛び交っているが、1990年当時は、まだその足音すら聞こえない時代。大女将の桑村 綾さん、経営を取り仕切っている若女将の桑村祐子さん母娘が、いかに先見の明を持ち合わせていたかがうかがえる。

こうした取り組みについて小川さんは、「女将たちの行動に日々触れていると、社員全員が自然とも食の未来や環境問題、社会問題などに目を向けるようになるのですね」話す。具体的なところで、米作りについて教えてくれた。

「高台寺グループで作っている米はイセヒカリという酒米で、それは、地元の酒蔵と提携して『和久屋傳右衛門』という日本酒になります。紫野和久傳グループはコシヒカリを育てており、それが高台寺グループ全店で供するご飯になります。普段は地元の農家さんに面倒を見てもらっているのですが、足りない分は、その農家さんたちの米を購入しています。もちろん全部無農薬。環境への配慮はもちろんですが、地元を活性化させるという意義も大きいと思いました」

「和久傳学校」と言われる教育


桑村 綾さんは大女将というより起業家、娘の桑村祐子さんは若女将というより経営者という方がふさわしいかもしれないが、各店舗の采配に関しては、潔く料理長に任せるのが和久傳流だ。

実は、和久傳は優秀な料理人を次々輩出することでも知られ、和久傳学校とも言われている。若くして料理長を任せられ、独立して繁盛店を構えるというケースが実に多く見られる。それもこの、現場を任せることで自分の頭で考えさせ、責任を持たせるという、二面的な教育に鍵があると思われる。

京都のような小さな町では、女だてらに、という評価もあるのかもしれないが、世界的に見て女性の地位が低い日本において、女将という特殊な職業ではあっても、世の中を大きく動かしていける力を持っている二人には、同性として誇らしい気持ちを感ぜずにはいられない。
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文=小松宏子

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