その提案にいち早く共感を示したのが、イタリアのファッションブランド「アルマーニ」。ブランドを率いる、ジョルジオ・アルマーニ氏は、これまでも再生素材を用いたカプセルコレクションの発表や、ミラノほか世界の主要都市での植樹など数々の取り組みを行い、環境に対するアプローチを続けていたことから、企業理念とも重なる。
今年3月から銀座にあるアルマーニリストランテで、エグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏が7皿のロスフードメニューを提案。好評を博したことから、9月まで提供予定の夏のメニューでも継続してロスフードの使用を決めた。
アルマーニ ・リストランテのペストリーシェフ、秋山真佐典氏(左)とエグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏(右)
例えば、「不揃い」のために出荷ができないトマトは、それぞれに異なった下ごしらえして、トマトウォーターのエスプーマとブッラータチーズのソルベを乗せてカプレーゼ仕立てに。「その時に届いたもので調理するので、大きさも味わいもバラバラ。それぞれに合わせた柔軟な対応が必要なため、シェフにとっては挑戦。しかし、逆にそれはあるがままの自然を理解することにもつながり、やりがいを感じている」という。
デザート担当の秋山真佐典ペストリーシェフは、吟醸香のある福井県・田辺酒造の酒粕を、糖度の高い、進物用のメロンと合わせた。
「このメニューを始めたことで、日本の生産者が、いかに完璧なものを追求しているかに気づいた」という。例えば、このメロンも、素人が見たレベルでは、全くどこが悪いのかわからないが、極上のメロンを作る生産者からすると「網目の入り方が完璧ではない」などの理由で出荷されないのだという。「もちろん、糖度もバッチリで香りもいい。何かが足りない食材を使っているイメージは全くありません」と語る。
決して、「安上がりに済ませたいからロスフードを使う」というわけではない。使用するレストランは、これらの食材を通常の相場とほぼ変わらない値段で購入し、一次生産者を支えている。その時の市場に余剰にあるもの、ということは“旬の食材”でもあり、自然と季節感あふれる料理になる。
そしてゲストは、旬の食材をたっぷり使ったコースをおいしく味わうことで、本来廃棄されてしまうはずだった食材を無駄なくいただくことができ、地球に負担をかける負のスパイラルに歯止めをかける一助となれるというわけだ。