酒蔵「仁井田本家」に学ぶ、100年後を見据えたビジネス


酒造りにおいても、独自の哲学がある。「我々は、お酒造りの腕は関係ないと思っているんですよ」という一言がそれを物語る。


防腐・防虫効果のある柿渋を塗った木材を使った伝統的な酒蔵

米を蒸して、水に入れて、ひたすら発酵を促す菌が降りてくるのを待つ、というのが、日本酒の伝統的な酒造り。仁井田本家では、蔵に棲みつく天然の良い菌に来てもらうために、自然栽培の米を使ったり、水道水ではなく井戸水を使ったり、蔵の環境を整えるのが酒蔵の役割りだと考えている。つまり、菌たちに選んでもらえる環境を作らないと、美味しい日本酒は造れないということだ。

その環境とは目に見えるものだけではない。蔵の神棚に毎日祈りを捧げたり、女将がピアノでジャズを奏でたりと、菌たちに喜んでもらえるようなユニークなアプローチも行なっている。


酒蔵の上階にはピアノがあり、女将がジャズを菌たちに聴かせている

さらには、造り手の“人柄”が味を左右するということで、従業員の人材育成にも力を入れている。

「良い人間が造るお酒は、やっぱり良いお酒になるんです。発酵には人の常在菌の菌叢(きんそう)が影響するので、造り手によって味も変わってきます。ですから、仁井田本家の社員は、挨拶をきちんとするとか、食事の前に必ず『いただきます』を言うとか、ゴミが落ちていたら拾うとか、基本的な行いをきちんとできる人間であろうと、日々心に留めながらお酒造りに勤しんでいます」

一方で、人間がすべてをコントロールしようと言うのはおこがましい、という考えも根底にあるという。「仁井田さんのところのお酒は美味しいね」と言ってくださる方に、仁井田氏はいつも「微生物と素材の力です」と伝えているという。

このような独自の哲学のもと造られる日本酒は、一体どんな味なのだろうか? 実際に飲んでみると、体への染み込みがよく、細胞レベルで喜びを感じさせる不思議な魅力が宿る。次の日の二日酔いも皆無だった。

「うちのお酒は、お米自体が自然栽培でとてもピュアですし、お水も井戸水と湧き水をブレンドした天然水を使っているので、余計なものは一切入っていません。だから体へのストレスがありません」

“酒は百薬の長”とあるように、本当に自然な形で造られたお酒というのは、心身ともにリラックスさせてくれ、健康に良いということであろう。
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文・写真=国府田淳

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