ビジネス

2021.07.14

「ソニーらしさ」といわれる企業文化こそ組織の価値創造の鍵

ソニーグループ執行役専務 安部和志


──「個の活躍」を支えるものは。

ソニーグループ発足にあたり、People Philosophy(人材理念)を再定義した。それが「Special You, Diverse Sony」。「主役はあなた」。そして「多様性こそがソニーの競争力であり、事業も人も同様だ」ということ。多様性を尊重するからこそ、「個」が生き生きと力を発揮する。私がCHROになった際、「とにかくみんなを元気にして、組織を活性化させてほしい」と当時のCEO、平井(一夫)から言われた。さまざまな施策の効果は、社員一人ひとりがどれだけ生き生きと活躍しているか、エンゲージメントに集約される。

いまでも入社式では、創業者・盛田(昭夫)が新入社員に語った言葉を紹介している。「ソニーに入ったことをもし後悔することがあったら、すぐに辞めなさい。人生は一度しかない。そしてソニーで働くと決めた以上は、お互いに責任がある。あなたがたが、いつか人生の終わりを迎えるときに、ソニーで過ごして悔いはなかった、と思ってほしい」。会社と社員がお互いに緊張感を持って、ともに成長することがソニーの継承する強みだ。

──これからのCHROに重要なことは。

吉田が「経営にいちばん大事なのは人事」と公言するのは、経営資源としての「人の可能性とその難しさ」を感じているからだろう。人の活躍度を定量化できない難しさは、醍醐味でもあり、可能性の大きさという意味では会社にとって最も重要な財産だ。CHROとして重要なことは、経営を理解するビジネスパートナーでありながら、人を深く理解することに尽きる。一方で、人は進化し、変化する。社会状況や世代、環境によって、人の行動規範や動機が変わる。それに追いつくのは、CHRO一人では無理だ。チームとしての力が必要になる。

多様な事業が価値を生んでいないと投資家から否定的に言われたこともあったが、人材も同じ。一人ひとりの創出する価値の総和が組織としての価値につながっていないと、人材のコングロマリット・ディスカウントであり、これを解消するのがCHROの役割だ。変えるべきもの、変えてはならないものを見極め、多様性を真の価値創出につなげていくことが求められる。


あんべ・かずし◎ソニーグループ執行役 専務 人事、総務担当。1984年4月、ソニー入社。2016年、執行役員コーポレートエグゼクティブ 人事、総務担当、20年6月より執行役 専務 人事、総務担当。

ソニーグループ◎1946年設立。代表者は、吉田憲一郎代表執行役会長兼社長CEO。2021年3月期の売上高予想は前期比6.5%増の8兆8,000億円。同純利益予想同86.4%増1兆850億円。時価総額15兆3,533億円(4月12日時点)

文=山本智之 写真= ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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