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2021.07.15 08:30

美術展やコラボレーション。アートはラグジュアリーの必須条件?


ぼくがここで思い起こすのは、21世紀に入ってからのコンテンポラリーアートの2つの流れです。


世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」(c) Art Basel

ヴェネツィアビエンナーレのような批評空間や公共性といった要素が重視される流れ、バーゼルのアートフェアにみるようなビジネス重視の流れ、これらの2つの流れがあるなかで、後者が顕在化してきたのがこの20年です。これがファッションを中心としたブランドのスタイタス向上に貢献したとは言えるでしょう。

ただ、もう少し説明を加える必要があります。この20年とはハイエンド企業が「ラグジュアリーの大衆化」を図った時期と重なるのです。より多くの商品を手ごろな価格で多くの人、殊にヨーロッパ以外の人たちに提供してビジネスを拡大してきました。そこで「ヨーロッパ文化に憧れる人を相手にロゴで荒稼ぎしている」と陰口される口封じのためにアートは適当なツールである。こういう意地悪な解説もでてきます。


米国のアーティストKAWSの作品。2020年に開催されたオークションで推定落札額は8万〜10万ユーロ(Getty Images)

メディアをみているとアート業界は活発かのようなムードがあります。オークションハウスで100億円を超えるような作品の取引成立がニュースになるからでしょう。他方、ヨーロッパのアートディーラーたちとぼくが話していて聞くのは、(ヨーロッパの物価感覚で)200〜500万円程度の中間価格帯の作品が売れないという現実です。従来、主要顧客だったエスタブリッシュされた大企業の役員、医者や弁護士といった専門職の人たちが買わないそうです。

また一方で、若手アーティストによる20万円前後のマーケットは活況しています。これらのなかから10年後には何十倍、何百倍の価格で売れる作品をつくるアーティストが生まれる可能性があるのが、この世界でしょう。

スタートアップがアートを取り入れるなら


即ち、ラグジュアリースタートアップが高級ブランド企業の文化財団が所有するレベルの作品を追うのが非現実的であるだけでなく、そのトレンドを追う必要がありません。そこに焦点をあわせるのは、従来型のラグジュアリーのロジックに嵌ることになるからです。

仮にスタートアップがアートとつきあっていくならば、新進アーティストと共に走っていくのが理想です。いずれ通用する感覚を共有して一緒に成長できるのですから。その姿勢に主要な購買層である若い世代も共感するはずです。

そういえば、と思い出しました。カルティエを有するコングロマリット、リシュモンはジュネーブにミケランジェロ財団をもっています。この財団は職人文化の普及を目指しており、ヨーロッパ中の学校や関係機関あるいは工芸などの工房とネットワークをつくっています。いわゆる「応用美術(実用性,有用性をふまえたアート)」の領域です。

ヨーロッパの近代に「アートのためのアート」ともいうべきファインアート分野が成立し、家具や陶芸などがアプリケーションアートとしてやや格下におかれるようになったのですが、世界各地の新しいラグジュアリーの担い手は軽々とそのようなラインを超えるかもしれないですね。

そのよう土壌をリシュモンが耕していると考えるならば、また違った視野が広がるでしょう。

連載:ポストラグジュアリー 360度の風景
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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