中野さんの原稿を拝見して、まず、特に服のブランドとアートの関係を語っている印象を受けました。高品質なバックや時計は長期間、それこそ何世代も継承することもスタンダードですが、ファッションについてはヴィンテージというジャンルを別にすれば、比較的短期間を対象にしたモノです。
シーズンごとに揺れるファッション分野だから、評価軸の長い世界、すなわちアートとつきあう意味があるのではないか……と中野さんは想定したのかと。もちろんエルメス(革製品)やカルティエ(宝飾)もアート分野で積極的に活動しています。ですから、対象商品分野ではっきりと線を引きにくいですが、分野の特徴とアートの関係を検証してみる価値はあるかもしれません。
さらに加えるなら、ラグジュアリー=ファッションではないという視点も強調したいです。
米国の戦略コンサルタント企業のベイン&カンパニーのデータによれば、ファッション、時計、靴など身体に触れる最終消費財の世界市場規模がおよそ30兆円。対して、それ以外の分野も含めたラグジュアリーの市場規模をおよそ140兆円と算出しています(いずれも2019年時点)。「それ以外」とはクルマ、ワイン・スピリッツ、グルメ、インテリア、アート、ホスピタリティ、プライベートジェット、クルーズ(早晩、宇宙旅行もここに入ってきますね)を指します。
コラボするアーティストの条件
アートは別として、「それ以外」の分野で文化財団を核に美術館を運営している企業はどのくらいあるでしょうか。
アートの展覧会の協賛、アーティストとのコラボなどは業界を問わずよくあります。中野さんが挙げたルイ・ヴィトンと村上隆のように、例えば、ワインのラベルにアーティストの作品を採用、クルマの外装やインテリア商品をアーティストに託して特別バージョンをつくるなどのケースです。
アンディ・ウォーホルをトリビュートした「ドン・ペリニヨン」(Getty Images)
ビジネス言語に長けているグラフィックデザイナーやプロダクトデザイナーに委託しないというのが、この手のプロジェクトの鉄則です。ビジネスに精通していない「アーティストさえこの商品開発に関心をもつ!」とアピールするのに意味があるわけです。
ワイナリーが文化財団をつくり、葡萄園が広がる風景のなかにアーティストが生活しながら作品をつくれるアートレジデンスを設け、地元の人とワークショップをしながら地域を盛り上げることもあります。
ラグジュアリー分野全体を見渡せば、中野さんが暗示する「文化財団が国際的に著名な建築家に依頼して美術館をつくり、そこに高額のコレクションを展示する。それによって、自らのブランドがあたかもコンテンポラリーアートの守護聖人であるかのように振る舞う」という現象は、限定されたケースかもしれません。彼らは、アーティストが時代の先を感知して表現する能力を買っているのでしょう。
だから近代以前のオールドマスターの作品群はとりあえず脇におき、20世紀以降の作品が話題の的になることが多い。