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2021.07.15

美術展やコラボレーション。アートはラグジュアリーの必須条件?

ルイ・ヴィトンがジェフ・クーンズとコラボレーションした「Masters」シリーズのバッグ(Getty Images)


ルイ・ヴィトンは村上隆やジェフ・クーンズを筆頭に、著名アーティストとコラボした商品をまるで芸術品のように陳列し、販売に導いているばかりではありません。自身の歴史を振り返る大展覧会もしばしば開催し、その際には専用の「美術館」となるハコから作り、アーカイブの数々を“珍重されるべき芸術品”として展示しています。

ルイ・ヴィトンはパリに美術館ももっていますが、そのような多方面でのアートとの結託が、このブランドに文化と時間の厚み、創造性のオーラを与え、ラグジュアリーブランドとしてのステイタスを強固なものにしています。


パリにあるフォンダシオン ルイ・ヴィトン (c) Fondation Louis Vuitton / Iwan Baan

ケリング・グループもパリに美術館をもつばかりか、会長のフランソワ・アンリ・ピノー氏自らアートを購入して本社にも数多くのアートを飾っています。2018年にケリング本社を訪問してピノー氏にアートの必要性についてインタビューしましたが、訪問第一歩でダミアン・ハーストの巨大な昆虫アートに迎えられ、来客に意外な驚きを与えるセンスにうなりました。

たしかに、ラグジュアリーには想定を超える驚きが必須です。歴史建造物や文化遺産を保護する寛大さを示すとともに、心のざわつきをもたらす現代アートで人の心を覚醒させ、感情を動かす。こうしたアートの力を借りたコミュニケーションは、ケリングの得意とするところです。


パリにオープンした美術館「ブルス・ドゥ・コメルス/ピノー・コレクション」(​Bourse de Commerce Pinault Collection)にて。左がフランソワ・アンリ・ピノー氏(Getty Images)

エルメスもまた、アートとのつながりを強くアピールしています。ほんの一例としてメゾンエルメス銀座では定期的に現代美術展を開催しています。また、新しい国に進出するときも、侵略者として見られないよう、その国の文化に敬意を払った芸術的イベント(馬との関連が多いですが)を先行して行うことで文化的エリートを味方につけていくという功名な賢さです。

アートは、機能からまったく独立した価値をもつゆえに、永遠性をもちます。だからこそ、アート性のオーラを帯びたり、少なくともアートと関連づけられることは、ラグジュアリーの高価格を支える根拠になりえます。エルメスのバッグが100万円を超えても求められるのは、熟練職人の手作業による高品質な商品だから、というだけではなく、価値の永続を保証するアート性(少なくともその幻想)をまとっているためでしょう。

新興ブランドはどうすれば?


19世紀末、オスカー・ワイルドは言いました。「人はアートになるか、さもなければアートを身につけなければならない」。これは人であれ企業であれ、ラグジュアリー化するために必須の条件と見えます。

問題はここからです。こうした既存のラグジュアリーブランドは資金力を駆使してアートとの関りを持ち続けることができますが、では、これからビジネスを築いていこうとする新しいブランドはどうすればよいのでしょうか?

シャネルのように創始者自身がアートになるような生き方をするというのも一つの方法ですが、誰もができることではない。ただの高品質な商品の提供者ではなく、“ラグジュアリー提供者”となるために必要な機能的価値以上の価値を、いかにして獲得していけばよいのか? 安西さん、なにかヒントはありますでしょうか?
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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