なんでも開発したメーカーの社長が元ミュージシャンらしく、こんなところにも他のメーカーにはない発想が活かされているという。このことが気に入り、大手メーカーの製品よりは少し割高だが、わが家はこの電子レンジを購入した。
「USP」という、広告業界やマーケティング業界では知らない人がいない言葉がある。USPは「Unique Selling Proposition」の略で、直訳すれば「他にはない売りの提案」で、機能上の差別化ポイントを指す場合が多い。
薬品であれば「〜という成分が入っています」とか、家電であれば「〜という新機能が付いています」、飲み物であれば「〜という新製法で美味しさを引き出しました」というようにだ。
一般に、広告はこうしたUSPのような差別化ポイントを伝えるものだとされている。しかし、世界の最先端では(いや一部は日本でも)、それとはまた別の展開が広がっている。
筆者もそうであったように、USPよりもメーカーやブランドが持つ雰囲気やメッセージを重要視して、購入する製品を決める人が増えているため、広告もそれに対応したものがつくられているのだ。
短編映画のようなラコステのテレビCM
世界の広告・マーケティング業界で、飛び抜けて大きな影響力を持つ賞である「カンヌライオンズ」。今年は6月21~25日の期間、すべてオンラインで開催された。そのなかでも「伝統の部門」としてクライマックスに発表され、最重要視されているのがフィルム部門の受賞作だ。
今回、その部門でグランプリを受賞したのが、ラコステの「CROCODILE INSIDE(クロコダイル・インサイド)」という90秒ほどのテレビCMである。
Lacoste - Crocodile inside
まるで短編映画のような作品で、最後の数秒しかスポンサーからのメッセージは出てこないが、それでも十分にラコステの広告として素晴らしいと判断された。
カンヌライオンズなどの世界のトップ広告賞では、「ただ美しいから」とか「ただ面白いから」といった理由での贈賞は、けっしてない。審査では「クライアントのビジネスにどれだけ寄与したか?」が主要な基準となる。
このアーティスティックとしか言いようのないラコステのテレビCMも、ブランド価値向上に大きく寄与していると判断されたからこそ、グランプリを受賞したと考えられる。