「Most」ではなく「Best」のアップル
スティーブ・ジョブズの後継者という大きなプレッシャーのもとでアップルのCEOに就任してから10年、60歳になるティム・クックは、胸の前で両手を合わせる独特のポーズと穏やかな口調で、オンラインメディアであるBrut.のCEO、ギョーム・ラクロワ(Guillaume Lacroix)と画面越しに対話した。
現在、欧州連合(EU)と米国の大手テック企業は、決して良好な関係とは言えない。EUは法人税、個人情報の扱い、独占禁止法などについて厳しい目を光らせており、その最新のターゲットが「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」だからだ。
ラクロアが口にした「GAFA」という言葉について、「GAFAとひとくくりにされるのは好きではない」とクックは言葉を返した。「4社は全く異なる企業で、ビジネスモデルも異なるし、価値観も異なる」と付け加えた。
ではアップルはどんな企業だと考えているのか。クックは「アップルはものづくりの企業だ」と言う。さらに次のようにアップルの姿勢を表明した。
「アップルはものづくりの企業だ。ハードウェア、ソフトウェア、サービスをつくっており、この3つが美しく、シームレスに機能するようにしている。われわれのフォーカスは、最も多い(most)製品ではなく、ベスト(best)な製品をつくることだ」
そして、アップルが現在、事業展開で重きを置いているのは「プライバシー」と「気候変動」だ。
まずプライバシーについて、アップルでは創業時からプライバシーは「基本的人権」であり、「それなくしては監視社会になる」として尊重してきたという。クックはその点について次のように説明した。
「ジョブズはいつも、プライバシーについてはシンプルな言葉で表現するようにと言っていた。だからアップルのプライバシーポリシーには、利用者は何に合意するのかをシンプルに書くようにしている。そして、(個人情報の取り扱いは)合意ベースのものであり、合意するかどうかは何度も尋ねなければならない」
次に気候変動については、アップル本体は数年前にカーボンニュートラルを達成、2020年7月にはサプライチェーンにも拡大するとクックは宣言した。達成目標は2030年。すでにアップル製品の生産を請け負う100社以上のサプライヤーが再生可能エネルギーを用いることを確約しているという。クックは「波及効果が生まれることを期待している」と付け加えた。
失敗がないのなら、挑戦していない
さらにクックは、アップルのルーツは「ベストな製品をつくり、人々の生活を豊かにする」ことであるとし、逆に「それに繋がらない分野は手がけない」と言い切った。
一方で、アップルが開発中ではないかという憶測が絶えない「アップルカー」については、「多少の秘密がないとね」と笑ってノーコメントを貫いた。