ビジネス

2021.08.02

デザインとエンジニアリング。 ふたつの言語で見つめる宇宙輸送

岡田匡史(JAXA)と田川欣哉(Takram)


H3ロケットは、人の心の器となりえる高いシンボル性がある


岡田:田川さんにひとつお聞きしたいことがあります。ロケットにおけるデザインの可能性についてはどう思われますか? ロケットは宇宙へ物を運ぶという輸送サービスに用いる製品ですが、ロケットには極限的な性能が求められるため、物理的な制約が多すぎて外形も必然的に決まってしまいます。そうした現実があるなかで、一般の製品と同様にデザインを追求することは意味があるのか?ないのか?あるとしたらそれは何のためか? その点について、時々考えることがあります。

田川:それはデザインの領域というべきかどうか迷うところですが、ひとつの視点としては、ロケットを眺める人たちがそのロケットに何を感じるのか。というところにフォーカスを当てると可能性が広がりそうです。言い換えるとそれはシンボル性の話につながると思うんです。ロケットは個数がかなり限られていますし、誰もが「あっ!」と目を惹く圧倒的な存在なので、強烈なシンボル性がありますよね。

点検を終えたH3
種子島宇宙センターにて、極低温点検(F-0)を終えた H3ロケット試験機1号機。

岡田:確かにそうですね。

田川:シンボルとは象徴、表象、記号を指しますが、例えば日の丸は国のシンボルです。その日の丸に、人はそれぞれそのときどきに希望や期待、祈りといった様々なエピソードを投影するもの。シンボルを、人の気持ちの器と形容する人もいます。そしてできるだけ蓄えの大きい器のことを"よいシンボル"であると僕らは呼ぶ。おそらくロケットという存在は、人間が作る人工物のなかでも最もシンボル性の高い、ポテンシャルがあるものではないでしょうか。僕はそう思ったんですが、H3ロケットの外形を拝見するときれいですし、可能性はすでに十分あるように思いました。

岡田:制約があるなかでもできるだけのことを考えました。例えば海外へのサービス展開を意識して、国名表記を現在の主力ロケットH-IIAロケットで用いている「NIPPON」から「JAPAN」に変更して、先端のフェアリングと呼ばれる衛星搭載部には、宇宙に向かうイメージの黒い矢印を描いたり。

H3のCG画像
H3ロケットのCG画像。フェアリングに黒い矢印が描かれている。黒は、フェアリングの素材の色。

田川:すごくスマートな外形ですよね。

岡田:システムはどこまでもシンプルに研ぎ澄ましてゆき、デザインもまたそのイメージとしました。「JAPAN」のタイポグラフィについてはもう、様々なフォントを並べて検証して、みんなに相当あきれられるほどに悩みました(笑)。そこは決して手を抜くところではないと。

田川:そうやってグラフィック面についても突き詰めていらっしゃるところが素晴らしいです。
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取材・文=水島七恵 写真=山本康平

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