ビジネス

2021.07.15 07:30

米シリコンバレー発、暗号資産の「今」を読み解く6つのトレンド


2. 投資インフラの整備


もう一つは、機関投資家や事業会社が本格的に暗号資産投資をしやすくするためのインフラ整備である。一つは暗号資産の安全なカストディ(資産の保管・管理)であり、ここ数年で飛躍的に成長している分野だ。最近では米国最古の銀行であるBNYメロンが米大手カストディ銀行として初めて暗号資産のカストディ事業に参入を発表したことが注目を集めた。

また、リスクヘッジのためのデリバティブ市場の成熟もカギとなる。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)やBakkt(バックト)がすでにビットコインの先物取引を提供しているが、最近CMEがイーサリアム(ETH)の先物取引も始めたことで、これまでビットコイン一択だった機関投資家による「アルトコイン(ビットコイン以外の暗号資産の総称)」への投資が今後加速するのではないかと期待されている。

さらに、機関投資家のコンプライアンス(法令遵守)をサポートするための、暗号資産取引の不正検知やリスク分析といった法人向けのサービスも成熟してきている。
 

トレンド2:トークナイゼーションの波


トークナイゼーションとは、有形または無形の資産に対する所有権を「トークン化(暗号化)」してブロックチェーン上で取引できるようにする仕組みのことだ。トークン化することで、取引の効率性が飛躍的に高まり、また、所有権を細分化することで流動性を向上させることができ、さらに所有権の情報の非改ざん性と高い透明性を確保することができる。

現在は世界のGDPの1%程度がトークン化されていると推定されているが、世界経済フォーラムの予測によると、27年までにはGDPの10%程度がトークン化されることが見込まれる。つまり、今後数年でトークン市場は10倍になることが予想されているのだ。


(出典:Finoa)

トークナイゼーションの対象は無限にあるが、ここ最近で注目を集めているのが、「NFT(ノン・ファンジブル・トークン:非代替性トークン)」である。NFTは代替できない唯一無二の資産をトークン化したものだ。アートやゲーム、音楽、蒐集品など、その応用範囲は広く、現在は特にエンターテインメント分野での関心が高まっている。NFTは新しいものではない。17年にCryptoKittiesというブロックチェーン上でネコのマスコットを繁殖して売り買いできるゲームが注目を集めた。

当時は「おもちゃだ」「実用性のあるものではない」と過小評価する人も多かったが、数年後、同プロジェクトチームがNBA Top Shotという、バスケットボール選手のプレイシーンの短い動画の所有権を購入、取引できる仕組みを開発。20年10月のローンチから約半年で、すでに5億ドル近くを売り上げている。

CryptoKittiesと大きく異なるのは、NBA Top Shotのユーザー層がメインストリーム化したことである。NBA Top Shotの一部のユーザーは、基盤の技術としてブロックチェーンが使われていることすら知らずに、純粋な所有欲や楽しみのひとつとしてこのサービスを利用しているのだ。


(出典:NBA Top Shotウェブサイト)

アートの分野でも、デジタルアーティストであるマイク・ウィンケルマンこと「Beeple(ビープル)」が競売にかけたデジタルアートのNFTが約75億円で落札されたことが話題になり、「クリプトアート」というカテゴリーができるまでになった。これまでデジタルアーティストは、作品が簡単にコピーされてしまうため、正当な収入機会を見つけることが難しかったが、NFTがデジタルの世界に「所有権」という概念を持ち込んだことで、デジタルアートも物理的なアートと同じように所有権を売ることができるようになった。
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文=吉川絵美

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