ビジネス

2021.07.19

ナラティブなき企業は生き残れない。PRストラテジストが語る「企業の物語」の力

本田事務所代表取締役、PRストラテジスト 本田哲也


──本田さんがいろんな国の事例をご覧になるなかで、ナラティブの有効性に国の違いはありますか。

ストーリーとナラティブが違う概念であるという認識は、欧米の方が浸透しているように思います。概念理解において、日本はもう少し頑張らないといけない。ただ、個人的には日本人の方がナラティブアプローチは向いていると思います。なぜなら余白の文化をもっているからです。

例えば、ディズニーには完璧に作られたストーリーがありますが、ゆるキャラはいい意味でツッコミどころ満載です。二次創作に繋がったり、ネット大喜利が盛り上がったりするのもそのせいで、戦略的でないにしても、結果的にナラティブアプローチにつながっています。だからこそ、余白の範囲やどこまでコントローラブルにするかという戦略的判断が欠かせません。特にローコンテクスト文化へ進出する際には、その国のバックグラウンドやリテラシーを考慮する必要があるでしょう。

──最後に。今、各国が自分の国のアイデンティティを打ち出しているなかで、日本のナラティブについて本田さんはどのようにお考えですか。

今、国としてのナラティブが不在ですよね。特に今年は東京オリンピック開催の年ですが、国民の多くは納得していません。しかし国民が納得しない原因は、説明不足による情報量の問題ではなく、参画すべき物語性が感じられないからではないでしょうか。もちろん説明不足も一因ですが、ナラティブ不在によるところも大きいように感じます。ナラティブの起点となるパーパスが足りていない。政治家やIOCにはそれぞれの事情があるでしょうけど、私たちには関係ありません。主役を国民に転換することを忘れてはいけないと思います。


本田哲也◎本田事務所代表取締役、PRストラテジスト。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された日本を代表するPR専門家。1999年にPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年にブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。P&G、花王、ユニリーバ、アディダス、サントリー、トヨタ、資生堂など国内外の企業のPR支援を手掛ける。19年より、株式会社本田事務所としての活動を開始。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著作多数。

文=伊藤みさき 取材・編集=谷本有香

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