この問題を解決に取り組んでいるのが、ナイジェリアを拠点とするスタートアップRxall社だ。同社は「Rxスキャナー」「Rxデリバリー」と呼ばれる2つのプロダクトを提供し、製薬会社、輸入業者、卸売業者から薬局や病院、そして患者に薬が届くまでの全サプライチェーンのデータを可視化している。
Rxスキャナーは偽造医薬品を判定するハードウェアデバイスで、NAFDAC、製薬会社、病院や小規模クリニックで偽薬を検知するために利用される。
Rxall社が提供する偽薬検知デバイス
Rxスキャナーに医薬品を入れ、赤外光を当てることで、分子振動を解析。そのデータが、Rxall社とNAFDACが共同作成する認可医薬品のデータベースと照合され、正規品か偽造医薬品か、約17秒でアプリ上に判定結果が表示される。実際にRxスキャナーを通じて検知された医薬品のうち15%程が偽造医薬品として発見されている。
全てのスキャンデータはブロックチェーン上に記録されるため、偽造医薬品が発見された時間や場所、正規の医薬品在庫数などが可視化され、不正をリアルタイムに把握することができる。
一方、Rxデリバリーは、病院や薬局に対して医薬品の仕入れを支援するB2Bマーケットプレイスであり、Rxスキャナーで正規品と判断された医薬品を1000拠点以上の医療機関へ販売している。無駄な中間業社を極力排除することで、高品質で安く医薬品を販売することに加え、医療機関の規模や位置情報、取引頻度などを解析し、効率的な配送網を実現している。
自分のような被害者を出したくない
Rxall社のCEO、Adebayo Alonge氏は、偽造医薬品の被害者だ。幼い頃、偽薬を投与されたことで21日間も昏睡状態となり、生死の狭間を彷徨った。
そのため偽造医薬品への問題意識が強く、大学では薬剤師の資格を取得。卒業後にスイスのグローバル製薬会社Rocheにて西アフリカの流通販売戦略を牽引した。その後、米イェール大学でMBAを取得し、ボストンコンサルティンググループのナイジェリアオフィスの立ち上げメンバーとして帰国した。
しかし、自らの惨事から15年が経過しても偽造医薬品はアフリカの重要な社会課題として位置付けられており、一向に解決の道筋が見えなかった。