なぜコロナ禍で税収が「過去最高」になったのか? 生活実感とのズレを紐解く

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このように内訳を見ていくと、その数字が過去最高になったことは納得できるかもしれない。しかし、どこか釈然としない気持ちになるところもある。

あらためて「税金の役割」とは何か。財務省のホームページに記載されているものを引用しよう。

「税」の役割
1:財源調達機能
税制は、前述のような「公的サービス」の財源を調達する最も基本的な手段として位置づけられており、これが税制の最も直接的かつ重要な役割です。
2:所得再分配機能
所得税や相続税の累進構造等を通じ、歳出における社会保障給付等とあいまって、所得や資産の再分配を果たす役割を果たしています。
3:経済安定化機能
税制は、好況期には税収増を通じて総需要を抑制する方向に作用し、不況期には逆に税収減を通じて総需要を刺激する方向に作用することで、自動的に景気変動を小さくし経済を安定化する役割を果たしています。
財務省ホームページより引用)

私たちが感じたモヤモヤは、この3から生じたものかもしれない。所得税のような累進性のある税率構造は、景気を自動的に安定させる機能を持つ(ビルトインスタビライザー)。つまり、景気がよく所得が多くなれば、そのぶん支払うべき税金が増える。それによって消費余力が減り景気の過熱が抑えられる。

反対に、景気が悪く所得が少なくなれば、支払うべき税金が減る。消費余力が削られないため消費に回せるお金が増え、景気が良くなるということだ。

このような観点に立つと、「コロナ禍にもかかわらず税収が増えた」ことに違和感を覚えるのである。

コロナ禍の経済のややこしさを実感


この過去最高の税収をポジティブに報じる記事を多く目にしたことも、違和感を大きく理由かもしれない。具体的には、記事中にあった「景気の変動に左右されない安定した税収構造」や、「昨年度の新規国債発行額が4兆円抑えられた」などの表現だ。

やはり、このような表現が多用される要因の1つが、減税や増税、財政出動などの財政政策の判断軸が財政状態、つまり財政黒字か、赤字かという点にあるからなのだろう。財政赤字だから、どれだけ景気が悪くても減税もしないし、財政支出も控えたいという考えが先に来てしまう。

しかし、先進各国では財政政策の判断軸は失業率などの労働環境と物価などにシフトしている。財政赤字であっても景気が悪く、物価が低い状態であれば積極的に財政出動をするということだ。

財政政策を含む経済学や、それを決定する政治の話となると、どうも難しいような気がして議論することを避ける人が多いが、冒頭のニュースに違和感を覚えたのであれば、その違和感が何から生じているのかを紐解いていくと、結果としてその過程が政治経済の勉強に繋がっていくので、ぜひ実践していただきたい。
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文=森永康平

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