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2021.07.11

尾州ウール産地で「ひつじサミット」 内向きだった産地に新しい風

ファクトリーツアーでは、ウール生地を織っている織機を見学することができた


では、最初の発起人である岩田社長を中心に、どのように地域を巻き込んでいったのだろうか。

まず、多様な意見を取り入れるため、実行委員会に繊維業のアトツギだけでなく、アドバイザーとして女性起業家やインバウンド向けの文化体験を提供する企業なども迎え入れたことが大きい。岩田社長は組織するにあたって「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げた。

「新しいチーム作りをする際に、前提として多様性があることは絶対に必要だと思いました。地方の産地は、アトツギとはいえ古い価値観がまだあります。なので尾州産地出身だけどベンチャー企業など別の場所で頑張っている人、さらに産地関係なくひつじサミットに共感してくれる人たちも含めて呼びかけることで、仲間が増えていった」と狙いを語る。

そのうち、エシカルジュエリーを手がけるHASUNA代表の白木夏子さんは愛知県一宮市出身。岩田社長が同世代の友人だったこともあり、声をかけた。準備から関わってきた白木さんは「小さい頃から慣れ親しんだ繊維工場やのどかな河原の風景など多くの方に楽しんでいただきたい」と語る。ひつじサミットの可能性については「(尾州には)地元に貢献する優秀なアトツギの方々が集まっており、今後事業承継に興味のある若者が全国に増えるきっかけになったら良いなと思います」と打ち明けた。

ライバルから仲間へ ギブ&ギブの関係に


地元の学生たちが積極的に関われる場も準備した。ひつじサミットのロゴは、名古屋モード学園の学生がデザインを手がけた。「回り道をしながら繋がっていく」という願いを込め、くるくると巻いた毛糸をイメージした。

名古屋の金城学院大学の学生たちは、自主活動として若者向けの発信に協力。プレ開催された当日は、女子大生9人が3つのチームに分かれて22会場を周り、学生目線でイベントや工場見学などの様子を写真撮影した。その写真は今後、ひつじサミットのインスタグラムで投稿していく。また、彼女たちは「ひつじダンス」を考案し、各工場の人たちのダンスで繋がっていくように演出。10月末の本開催に向けて、TikTokで発信して「バズらせたい」という。

ひつじサミット尾州の様子
工場で使う糸について学ぶ大学生。写真は学生が撮影

成功の鍵は何か。岩田社長は真っ先に「自ら懐を開いたこと」と答え、こう続けた。

「どの地方でも産地の企業は、仲間でありライバルでもある。これまでは、ライバル意識が横につながることを邪魔してきたと思うんですよ。ただコロナ禍で状況が急激に悪化する中で、自分たちだけ良ければいいのではなく、みんなで協力しなければならないという機運が高まってきました。産地に興味を持ってもらって、お客さんも共有できたらいい。だから自分から心を開くことで、ギブ&ギブの関係性ができたのが大きいと思います」

また、尾州産地では何世代も続いてきた企業のアトツギが多く、これまで企業が地域で培ってきた「長年の信頼感」も大きく作用した。さらに岩田社長を中心に「個人的なベンチャー精神をもった人とのつながりもフルレバレッジして、両者の思いが重なっていった」と明かす。

10月に本開催を控えるひつじサミット。プレ開催は規模を縮小することになったが、岩田社長は「助走期間が長くなったと思って、全国に向けて大々的に発信をしていきたい」と意気込む。東京の百貨店で事前にポップアップストアを開くなど、イベントを盛り上げるための仕掛けを仕込み始めている。参加事業者はアパレル繊維業だけでなく、飲食店も含めて約50社を見込む。プレ開催の手応えをもとに、秋に向けて尾州産地発の「サステナブル・エンターテイメント」はスケールアップしていく。

文・写真=督あかり

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