米国の警察が密かに使う捜査ツール「スティングレイ」の実力

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犯罪容疑者を追跡する手法の中で、テキストメッセージで彼らが指名手配されていることを伝え、自首を促すのは最も大胆な方法の一つと言えるだろう。しかし、米国のシークレットサービスは、これを成功に導いた。

今年4月、ウェストバージニア州で、アブドゥル・イヌサという人物がロマンス詐欺の容疑で起訴された。イヌサは、ネット上でさまざまな偽の人物像を作り、人を騙して関係を築き、金を奪い取ったとされている。あるケースでは、イヌサは被害者に、自分はグレースという女性で、南アフリカのヨハネスブルグでカカオ農園を所有していると信じ込ませ、農園を維持するための資金を送らせたという。

シークレットサービスの主任調査官はイヌサのものと思われる電話番号にテキストを送った。最初は、「イヌサさん、いつか機会があれば電話してください」という内容だったが、次に送ったのは「ウィスコンシン州ハンティントンから逮捕状が出ているので、出頭してほしい」というものだった。

すると、イヌサから依頼を受けたという弁護士から電話がかかってきたという。その弁護士は結局、イヌサの弁護を断って同僚に引き継いだが、その同僚も捜査官宛ての電話で、彼の弁護を断ったとされている。

しかし、これで捜査官は、自分がテキストを送った電話番号が実際にイヌサのもので、最近まで彼が使っていたことを確信した。また、テキストが読まれたことを示すiPhoneの通知も入手出来ていた。

その後間もなく、捜査官はベライゾンから携帯電話の位置情報を入手したが、そのデータの精度は十分ではなかったという。テキストの送信から2週間後、シークレットサービスはイヌサを逃亡者とみなし、不法移民である彼が国外に逃亡することを懸念した。

彼らは、より精緻な位置情報を得るために、E-911フェーズIIデータと呼ばれるものを取り寄せた。通信事業者が管理するこのデータは、主に救急隊に活用されるが、法執行機関が捜査に用いることが可能だ。

位置情報を吸い出す捜査ツール


また、「スティングレイ」と呼ばれる捜査ツールの使用を裁判官に要求した。このツールは、基地局を装って携帯電話をだまし、近くにある基地局に接続していると信じ込ませるためのものだ。これを使えば、接続された携帯電話の正確な位置情報を入手できる。

ただし、スティングレイは過去に物議を醸したことがある。たとえ警察が影響を最小限にとどめると約束しても、無実の人のデータまで吸い上げることになるからだ。オレゴン州のロン・ワイデン上院議員は最近、スティングレイの使用を希望するすべての法執行機関に対し、まず正当な理由を示す適切な令状を取得することを義務付ける法案を提出していた。

裁判所の文書には、これらのツールの使用が功を奏したかどうかは書かれていないが、イヌサは6月16日に逮捕され、1万ドルの保釈金を払ったことが確認できた。彼の弁護人はフォーブスのコメント要請に応じていない。

編集=上田裕資

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