名目上は民間利用だが、軍事目的で利用される可能性は否定できず、議論を呼んでいる。南シナ海の支配権獲得を意図したものという見方もあり、監視システムのセンサーを通じて取得した情報を中国海軍(PLAN)が軍事目的で利用しないとは考えにくい。
ドーム型レーダーも。進化し続ける監視プラットフォーム
また、この監視システムは大部分が海中に隠されている、もっと大規模な監視ネットワークの一部とも考えられる。周辺地域に対する中国の戦略的な立場を優位にし、米国海軍の動向を監視するのが狙いだ。
米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のアジア海洋透明性イニシアチブの調査によれば、この監視システムは〈ブルーオーシャン・インフォメーション・ネットワーク〉と呼ばれるものの一部だという。システムの概要は、2019年のランカウイ海事航空展覧会で情報公開されている。
プラットフォームには、電気工学・赤外線センサーを配した旋盤、高周波および携帯電話回線通信装置など複数のセンサーと通信設備が搭載されている。また、その多くは主要センサーである大きなドーム型のレーダーも備えている。プラットフォームは遠隔操作され、メンテナンスもほとんど必要ない。
このシステムがあれば、中国は海南からパラセル諸島とスプラリー諸島まで南シナ海の広範囲をレーダーの監視下に置くことができる。両諸島にはすでに多くのレーダーを備えた軍事拠点があり、無人の環礁であるボンバイ礁の海岸線にも監視装置が設置されている。最近では、パラセル諸島のウッディー島で米海軍空母ロナルド・レーガン(CVN76)が訓練を行った際には、中国はフランカー戦闘機を配備していた。
「南シナ海は中国のもの」
監視ネットワークのうち、海中に隠れたシステムは〈海中の万里の長城〉と呼ばれている。これは海底に配置された音響監視システムで、冷戦時に米軍が利用したことで知られるSOSUSと似たシステムらしいが、最新技術を駆使し、地域の環境に合わせたものになっている。中国が海底にセンサーを配備しようとしているのは周知の事実だが、具体的な技術や設置場所、利用実態などは当然ながら軍事機密だ。海上のセンサーとは異なり、近くを通過する船からも見えない。
南シナ海の領有権をめぐっては、フィリピン、ヴェトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾、そして中国が熾烈な争いを続けている。中国は、事実上他国の支配下にある多くの島々や岩礁を含む大部分の領有権を主張している。一般に〈九段線〉と呼ばれる、中国が主張する境界線は現実にはあいまいな部分があるものの、その主張ははっきりしている。中国に言わせれば、南シナ海は中国のものなのだ。