今回話を聞いたのは、日米仏の企業を渡り歩いた西口一希。マーケティング視点から経営者とキャリアを積み、スタートアップも経たベテランがCxOを目指す人に送るエールとは。
植野大輔(以下、植野):先日、“P&Gマフィア”の総帥といわれる伝説のマーケター、和田浩子さんとお会いしたら、当時、P&Gで採用した人が面接で何を言ったか、いまだに全部覚えていると言っていましたよ。
西口一希(以下、西口):多分、本当です(笑)。和田さんには鍛えられました。
植野:入社当時の1990年、マーケティングという言葉は一般的でした?
西口:マーケティングという語は80年代の終わりから徐々に広まったので、当時のP&Gは、まだ宣伝本部、アドバタイジングと呼んでいました。
デジタルも何もないシンプルな時代です。パンパースという優良ブランドに配属され、やることなすこと当たって。その後、ヘアケアに移ってもいい感じで仕事しましたが、新商品で大失敗。20代後半の経験が、いまでも一生抱えるトラウマです。
植野:何がいちばんのミスだったんです?
西口:お客さんのことを全然見ていなかった。新しいアイデアがお客さんを変えることもありますが、潜在的なニーズもないところにもっていってはダメなんです。そんな経験から、顧客起点のマーケティングモデル「9segs」のリサーチ手法を編み出せたんです。
プリングルズ担当のときは、PL法(製造物責任法)問題でものすごい勢いで商品が返ってきたことがあります。疑似的に経営者の経験をしたのはキツかったですが、今思うと、若くしてPL(損益計算書)責任をもつ経験をさせてもらったのは大きかったです。
植野:その後、ロート製薬に移りましたね。外資と日本の老舗企業だと、まるで別世界では?
西口:完全にそうです。意思決定の仕組みが全然違うんですよ。P&Gでは全員が共通言語で話して、同じような視野と思考回路をもっていた。だからコミュニケーションコストが少なくて楽なんですね。
植野:コミュニケーションに型がある。ロートは?
西口:当時、社長だった山田邦雄会長が何か言うと、それは神の一声。でも、相当な確率で「当たる」んです。8年間、一緒に働かせてもらい、お客さんやマーケットを非常によく見ていると知りました。
僕の思想の半分以上は山田さんから影響を受けています。社内でも部長クラスだと相手が萎縮してしまうから、1年目や2年目の新人と話している。最もマーケット感覚をもっていて、自分に忖度しない層から情報を吸い上げているんです。