ビジネス

2021.07.11 17:00

CMOが語る、CEOとの違いと果たすべき役割


植野:神の一声じゃなく、努力から出る一声。

西口:オーナーが誰よりもマーケット感覚をもっているのは、ニトリやユニクロもそうです。彼らは「当たる」んじゃなくて「考え抜いて当てている」。今のバリューチェーンを把握しているのは当然で、その土台には「誰にどういう価値を提供してビジネスが成り立っているか」という顧客戦略がある。それらを元に「これからバリューチェーンを変えていったら何ができるのか?」というシナリオスタディをずっと重ねているんです。

植野:最近の言葉だと、「両利きの経営」(※3)でしょうね。今あるビジネスをいかに深めていくかと、違うほうにどう出ていくかを同時に考えるという。

西口:優秀な経営者たちはそれらが頭の中で全部つながっています。でも、口にするのは端的な「結論」だから、周りには神の一声に聞こえるんです。

※3 両利きの経営 2019年のベストセラー書のタイトル。成熟した大企業・中堅企業がイノベーションを起こすためには「二兎を追う戦略」が必要と説く。

CMOが果たすべき役割は?


西口:現在の僕は、ポジション的には経営コンサルタントです。すごくいいものでも、本来届けるべきお客さんに届け切れていない。そんな商品やサービスを届けるお手伝いをする役割です。やっぱりマーケターは価値を生み出さなきゃいけない。その矜持をもたないと、マーケティングが単なる「ものを売る手段」になってしまいます。

価値を提供してお金をいただくのだから、モラルや倫理は重要です。極論すれば「そんなものを売ってどうするのか」というものは売ってはいけないんですよ。そのプロダクトを磨くものがマーケティングだと僕は信じていますから。

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「顧客の価値を考え尽くすことがマーケティングなら、経営もマーケティング。西口さんはそう考えてきた」

植野:ドラッカーは、経営とはマーケティングとイノベーションだと言っています。顧客の価値を考え尽くすことがマーケティングなら、経営もマーケティングでしょう。一方、マーケターと経営者の仕事が一緒かと言えば、そうではない。

西口: CEOとそれ以外のCxOの仕事には、雲泥の差があります。顧客戦略が生み出す価値を、中長期で最大化するのがCEO。一方、顧客価値から確実に稼ぐのはCOOの仕事です。

植野:セットされた顧客戦略に基づいて拡大生産をひたすらやる。単年度数値をしっかりつくるのがCOOのミッションですから。そのうえで、ご自身がやってこられたCMOはどういう役割でしょう?

西口:結構、CEO次第で変わる役割です。基本的にCEOがやっている人事や総務、資金調達といった会社の運営にかかわる仕事を引き算したものが、CMOの本来の役割だと僕は思います。

現在のバリューチェーン、そこで成り立つ顧客戦略、そのグループ性を高めるためのバリューチェーン改善、それらはCMOも把握していなければいけません。そのうえで、顧客満足を高めるためにバリューチェーンのなかで何を提案すればいいか、どんなアイデアをそこにもち込めばいいか考えるのがCMOに任せられた仕事。CxOのうち「顧客とマーケットをいちばん見ている存在」がCMOのはずですから。
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文=神吉弘邦 写真=大竹ひかる

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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