ビジネス

2021.07.11

CMOが語る、CEOとの違いと果たすべき役割

DX JAPAN代表 植野大輔(左)とStrategy Partners 代表取締役、M-Force 共同創業者 西口一希西口一希(右)


植野:先ほどの話だと、CEOもマーケティング感覚を備える人はいますよね。彼らとの違いは?

西口:CMOは目先のお客さんやマーケットに時間を割けるので、CEOとはまた違う次元と情報ソースで「将来のマーケット」を見通そうとします。将来的に取りうる顧客戦略、どういう顧客にどんな価値を提供したらマーケットがあるのかという兆しは、CMOがいち早くつかまないといけないんですね。

とはいえ、僕が一緒に仕事をさせていただいているとき、ロートは再生医療に参入したんです。5年や10年で再生医療は絶対に利益化できないと僕は踏んでいたのですが、山田さんは決断されました。いま、新型コロナの治験などにも参加するなど、すごい進んでいるみたいで、これがCEOとそうでない人間の差だなと思います。僕の視界はせいぜい数年先で、そこまでの視点はもちえませんでした。

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「バリューチェーンを理解しながら顧客戦略を成立させる。アンドパッドCMO・植野さんの活躍を見守ります」

植野:CMOのKPIやKGIは何ですか?

西口:僕は「顧客の人数」と「そのブランドを次も買いたいというお客さんをどれだけ増やすか」という2点だけだと思います。

売り上げを分解すると、人数×単価×頻度。単価も頻度も「人がどういう価値を感じるか」で決まります。ということは、コントロールできるのは「人」しかありません。一過性の人だけ増やしても仕方ないので、次も買いたい気持ちをもつ人をどれだけ増やすか。これがライフタイムバリューをつくるし、費用対効果を高める。人数だけ増やせばいいという考えだと、売り上げだけ上がって利益は下がります。

植野:人数だけだと、キャンペーン乱発になりがち。

西口:でも、次に買いたいお客さんだけ増やそうとすると、規模の拡大ができなくなり、どこかで売り上げが落ちます。だから、両方を拡大していく必要があるんですね。こうした計測できないブランディング、人に勧めたい気持ちといった指標をつくるのは、CMOが本来やらなくてはいけない仕事です。

植野:本来のマーケティングはそうだったのに、「自分たちが提供したい価値とは何か」というところを忘れ、獲得施策のリピートに走りがちですよね。

西口:学生時代に起業した自分の経験に照らしても、誰もが最初はどのクライアントに、どうしたらお金をいただけるのか必死に考えたはず。でも、会社の売り上げが立って利益も上がると、顧客のことを考えなくても回るようになるから危機感がありません。

スタートアップでも、最初あたりのラウンドはちゃんとやっているのに、途中のシリーズでガバッとお金が入ってきたら突然失速する会社とか、全然違う事業を始める会社があります。彼らはまだ顧客戦略が見えていないんですよ。

CEOの役割の一端を自陣で担う


西口:これまでに僕は、CxOのタイトルが付く何百人と仕事をしてきました。うまく結果を出している人に共通する2つの要素があります。
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文=神吉弘邦 写真=大竹ひかる

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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